ゴールデングローブ賞受賞!濱口竜介監督が美術家・奈良美智と語り合う、創作の秘密

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ゴールデングローブ賞受賞!濱口竜介監督が美術家・奈良美智と語り合う、創作の秘密

1月20日(木)に下北沢にオープンするミニシアター、シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」の開館記念イベントが下北沢・ADRIFTにて開催。柿落とし作品となる『偶然と想像』(公開中)の濱口竜介監督と、美術家の奈良美智による特別対談が実施された。

イベント登壇前での楽屋トークがかなり盛り上がったという2人。奈良は「すごく良い話ができたので、本番でも(いいテーマが)思い出せるといいけど」とニッコリ。濱口監督は奈良のトーク映像を観た際に「信じられる人」と理解したという。その理由を映像に映る姿が「そのままだったから」と説明。「人が映像に映る時、そのまま映ることは珍しいもので、映像を観て“この人は、こういう人”と分かる人に出会うことはほとんどないんです」と力説。お互いに好印象であることを明かし、和やかな雰囲気のなかで対談がスタートした。

【写真を見る】濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がゴールデングローブ賞を受賞!世界の映画賞を総なめ中
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奈良の絵について濱口監督は「シンプルな絵の奥にいろいろ描かれた線があること」を理解してから見ると、「なんていい絵なんだろう」と、感じたそう。奈良の存在も、絵ももちろん知ってはいたものの、「奈良さんファンには申し訳ないくらい深く知っていなかったのですが、いまこのタイミングで深く知れたことをよかったと思っています」と説明した。

一方の奈良は「普段、監督の名前で映画を観ることはほとんどありません。監督というよりも“映画ありき”で観ています」とコメント。ただ、今回は対談が決まったこともあり、「どんな人が作っているんだろう、という観点で映画を観ました」と振り返り、「僕とはまったく違うタイプの人と想像していたのですが、“ものを作る”という観点では同じ感覚を持っている、そんなふうに感じました」と感想を伝えると、濱口監督は「なんか、僕もそう感じています」とお互いに通じるものがあることを明かして笑顔を浮かべていた。

日本映画として62年ぶりの快挙となったゴールデングローブ賞非英語映画賞受賞の『ドライブ・マイ・カー』(公開中)について奈良は「遠くから車が行ったり来たりするところのカット。(特に風景を)客観的な撮り方をしている感じがしました。その理由をさっきもちょっと話していたのですが、濱口監督のお父様が転勤族だったことがあったようですね、すごく納得でした」とうなずく。


濱口監督は奈良にバンバン質問をぶつけた
濱口監督は奈良にバンバン質問をぶつけた

濱口監督が「普通は、自分の住む街に慣れていくもので、風景をしっかり見なくても“こういうもの”となじんでいきますよね。でも、僕にとって2年ごとに変わる街の風景は怖いものとして迫ってくるんです。それは人間関係も同じで、このクラスの人間関係はどうなっているんだろう、という気持ちで(引いたところから)見るようになっているのだと思います」と分析すると、奈良が「転校生あるあるだね」と補足。濱口監督は「奈良さんが話している映像を観た話に戻りますが、その時に感じたのは手触りがあるなということでした。土、雪を感じるというのかな」と解説。奈良は「高校卒業までずっと同じ場所にいたから、僕には(自分の住む場所に)客観性が持てなくて。むしろ主観性しかなかったです」と説明した。

作品の感想をもらう機会が多い2人は、「そういう理解もあるのか」と驚くことも多いという。濱口監督は「僕がそこまで理解せずに作っていた部分の答えをしっかりもらえたときには、“次のインタビューで修正しよう”」と解釈を拝借するがあるとニヤニヤ。奈良も同様なことがよく起きるとし、作品を作っているときには気づかなかったことを「そういうことだったのか」と後から気づかされることがあるとし、「結局、なにが正解ということはないし、自分の手を離れた作品が他人に見られる反応によって気づきがあったりします。まさに『偶然と想像』です」と濱口監督作品のタイトルにかけた説明をし、会場からは拍手がわきおこった。

対談後半では、来場者からの質問に2人が答える場面も。「コロナ禍で創作に影響、変化はあったのか」という質問に濱口監督は「震災のときのような変化はありません。不便なことはもちろんあるけれど、制作に関しては特に“悪くなった”と感じることもなく、作品を作り続けています」と答えていた。奈良は観光地としては良いことじゃないかも、と前置きしつつ、「観光客が行かなくなったことで、ヴェネツィアの海が綺麗になったことはよかったと思っています。地球が人間だけのものじゃないことを知る良いきっかけになったのでは?」と世界の変化に触れていた。

濱口監督との共通点を丁寧に語る奈良
濱口監督との共通点を丁寧に語る奈良

コロナ禍でも海外に行く機会が多かったという2人は、隔離期間についても言及。奈良、濱口監督は「隔離期間、1人になることが苦ではない」と明かし、「むしろ、1人の時間がすごくうれしい」とここでも意見が一致。「隔離期間の場所がオアシスに感じた」というコメントも飛びだし、笑いを誘っていた。

来場者には学生が多くいたこともあり、学生時代にやっておくべきこと、やっておけばよかったことなどを答える場面も。ここでも2人は「もっと遊んでおけばよかった」と意見が一致。意見だけでなく好みも近いものがあるようで、「今日、僕はなぜ半袖なのかをここで説明します」と切りだした奈良は、半袖のTシャツの上にニットを重ね始める。「実は、今日の服装がすごく似ていたので。対談スタート前に、慌てて舞台袖で脱いだんです」とニコニコ。濱口監督は「20以上年下の僕が脱がずに、すみませんでした」と気まずそうに返すなど、なにかと多い共通点を印象づけ、イベントを締めくくった。

取材・文/タナカシノブ

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