スピルバーグが映画化した意義も見えてくる!「トゥナイト」「マリア」「アメリカ」…『ウエスト・サイド・ストーリー』を彩る名曲を解説
「サムウェア」を歌うバレンティーナにスピルバークが込めたメッセージ
ロバート・ワイズ監督による『ウエスト・サイド物語』が公開された当時、アメリカの若者たちの間でロックンロールが流行しつつあった。映画化される際には、トニー役にエルヴィス・プレスリーが考えられていたとか。しかし、物語の舞台になるニューヨークでは、ロックよりラテン音楽が人気だった。そして、プエルトリコの文化を描くことで人種問題に触れることが「ウエスト・サイド・ストーリー」という作品の目的であり、画期的なところだったのだ。
だからこそ、スピルバーグは差別や社会の分断が大きく注目を集めるいまの時代に、この物語を再び世に問いたかったのだろう。ただ、残念ながら最初に映画化された際には、ラテンアメリカ系の役者はほとんど採用されなかった。そんななか、プエルトリコ出身者として熱演したのがアニータ役のリタ・モレノで、彼女は見事アカデミー賞助演女優賞を受賞する。
そのモレノが『ウエスト・サイド・ストーリー』に再び出演しているのも話題の一つ。今回彼女が演じているのは、トニーが働いている雑貨店の店主バレンティーナ。『ウエスト・サイド物語』では、事件を起こしたトニーがマリアを訪ね、2人は愛を確かめながら、平和で静かな場所がどこかにあるはず、と祈るように「サムウェア」を歌う。一方、スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』では、トニーの身を案じながらバレンティーナがソロで歌う。スピルバーグは、ラテンアメリカ系俳優の草分けでもあるモレノに敬意を払いつつ、『ウエスト・サイド物語』が公開されて半世紀以上の時が流れたいまも、世の中から差別や争いが消えることがない悲しさ。そして、それでも希望を失いたくない、という想いを伝えている。
オリジナルへのリスペクトが伝わる『ウエスト・サイド・ストーリー』サウンドトラックにも注目
今回、こうした名曲たちをアレンジしたのは、『アナスタシア』(97)でアカデミー賞にノミネートされた作曲家、デヴィッド・ニューマン。そして、かつてバーンスタインが指揮をしたアメリカを代表するオーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックが見事な演奏を聴かせてくれる(一部、ロサンゼルス・フィルハーモニックが演奏)。また、映画にあわせてリリースされるサントラ盤には、サントラに「ミュージック・コンサルタント」として関わった巨匠、ジョン・ウィリアムズが執筆したライナーノーツが掲載されるなど、映画本編だけではなくサントラからも、オリジナルへのリスペクトがしっかりと伝わってくる。
『ウエスト・サイド・ストーリー』は名作ミュージカルの再映画化というだけではなく、スピルバーグからいまの世界に向けたメッセージであり、そこで流れる歌は新たな感動をもたらしてくれるだろう。
文/村尾泰郎