“マッツ愛”が試される!?アナス・トマス・イェンセン×マッツ・ミケルセン作品の不思議な魅力とヤバさ
第93回アカデミー賞国際長編映画賞に輝いた『アナザーラウンド』(20)での名演も記憶に新しいデンマーク出身の国際的俳優、マッツ・ミケルセン。今後も『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(4月8日公開)や『インディ・ジョーンズ5(仮題)』(公開日未定)といったビッグタイトルが控え、ますますその活躍から目が離せない。そんな彼の最新主演作『ライダーズ・オブ・ジャスティス』が現在公開中だ。本作のメガホンをとったのは、デンマークで最も有名な脚本家で監督でもあるアナス・トマス・イェンセンで、ミケルセンが彼の監督作に出演するのは5度目になる。
デンマークを代表する監督&俳優コンビのアナス・トマス・イェンセンとマッツ・ミケルセン
ミケルセンのキャリアを振り返ってみると、上記で触れたタイトル群からもわかるように、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)や『ドクター・ストレンジ』(16)などハリウッド大作に出演する一方で、ヨーロッパの良作映画にもコンスタントに参加してきた。そのなかには、母国デンマークの監督作も数多く含まれ、長編デビュー作『プッシャー』(96)とその続編『プッシャー2』(04)、『ヴァルハラ・ライジング』(09)などのニコラス・ウィンディング・レフン、『しあわせな孤独』(02)や『アフター・ウェディング』(06)のスサンネ・ビア、ミケルセンに第65回カンヌ国際映画祭男優賞をもたらした『偽りなき者』(12)と『アナザーラウンド』のトマス・ヴィンターベアといった名匠たちの名前が並んでいる。
特に、1990年代終わり頃から約20年の付き合いになるというミケルセンとイェンセンとのタッグは印象的。その関係は、イェンセンの長編デビュー作『ブレイカウェイ』(00)からスタートし、『フレッシュ・デリ』(03)、『アダムズ・アップル』(05)、『メン&チキン』(14)、今回の『ライダーズ・オズ・ジャスティス』と、すべての監督作にミケルセンはメインキャストとして出演してきた。
ミケルセンの狂気や変態性を導きだすイェンセンの唯一無二の作家性
イェンセンの作風は一筋縄ではいかず、あえて説明するなら、奇想天外なストーリーと予測不能な展開、ブラックなユーモアもちりばめられたどこか心温まるヒューマンドラマといったことが言える。例えば、『フレッシュ・デリ』では、精肉店を営む男2人が誤って人を冷凍庫で凍死させてしまい、証拠隠滅のために死体をマリネにして販売したところ、その味が評判となり店が大繁盛してしまう。旧約聖書の「ヨブ記」と「アダムの林檎」の逸話をベースにした『アダムズ・アップル』においては、ミケルセン演じる常に極端なポジティブシンキングを貫く牧師と、更生のために刑務所から牧師の教会へやって来たネオナチの男との奇妙な交流が描かれる。
また、美しく気品あふれる身のこなしや佇まいが特徴のミケルセンだが、イェンセンの監督作ではそういった魅力は封印。『フレッシュ・デリ』での彼は、前髪を頭頂部まで剃り上げたビジュアルで登場し、広くなったおでこに汗を浮かべ、挙動不審な態度を取っている。さらに、ある兄弟のルーツ探しを描いた怪奇作『メン&チキン』では、もじゃもじゃのくせっ毛と無精ひげが目につく、マスターベーションをしたい衝動が抑えられない男を怪演している。『007 カジノ・ロワイヤル』(06)のル・シッフルやドラマ「ハンニバル」シリーズで彼のファンなった人にとっては、そういった特殊すぎるキャラクター性に“マッツ愛”が打ち勝てるか否かが、イェンセン作品を楽しめるかの分岐点と言えるだろう。
ちなみに、脚本家としてのイェンセンは、第83回アカデミー賞で外国語映画賞(現、国際長編映画賞)に輝いた『未来を生きる君たちへ』やスティーヴン・キング原作のアクション『ダークタワー』(07)のほか、『しあわせな孤独』や『アフター・ウェディング』、『悪党に粛清を』(14)といったミケルセンの出演作も手掛けている。脚本作品では比較的抑え気味な持ち前のエキセントリックさを監督作では一気に解放。ミケルセンの狂気や変態性も導きだし、そういった役柄を彼が全力で演じていることからも、2人の相性の良さを感じることができる。