声優、映画パーソナリティ、感染症医らのコメントからひも解く…いま『鹿の王 ユナと約束の旅』を観るべき理由
「守り人」シリーズなどで知られる作家、上橋菜穂子のファンタジー小説「鹿の王」を長編アニメーション映画化した『鹿の王 ユナと約束の旅』(2月4日公開)。巨大な帝国が支配する世界を舞台に、人々とその世界を侵食する謎の病との壮絶な闘いが圧倒的なスケールで描かれる。公開に先駆け、声優や映画パーソナリティ、感染症医ら著名人が本作を鑑賞。寄せられた感想コメントをピックアップしながら、作品の見どころを紹介していきたい。
“映像化不可能”と言われ続けた小説に実力派スタッフ&キャストが集結
かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、突如発生した謎の病、黒狼熱(ミッツァル)によって撤退を余儀なくされた。以降、2国は緩やかな併合関係を保っていたものの、アカファ王国はウイルスを身体に宿す山犬を使って、ミッツァルを再び大量発生させることで反乱を企てていた。ミッツァルが国中で猛威を振るうなか、最強の戦士「独角」として祖国のために戦い、囚われの身となった寡黙な男ヴァンは、山犬の襲撃を生き延び、身寄りのない少女ユナと旅に出る。ミッツァルから多くの命を救おうと奮闘する医師ホッサル、アカファの命を受けてヴァンをねらう女戦士サエ、それぞれの思惑が交錯していく。
緻密な医療サスペンスと感動のストーリーが組み込まれた壮大な世界観だけに、長らく“映像化不可能”と言われてきた「鹿の王」だったが、日本のアニメーション界最高峰のスタッフ陣が集結する形で実現。『もののけ姫』(97)、『千と千尋の神隠し』(01)をはじめとするスタジオジブリ作品や『君の名は。』(16)など数々のヒット作に携わってきたアニメーターの安藤雅司と、同じく『千と千尋の神隠し』で監督助手を、『伏 鉄砲娘の捕物帳』(12)で監督を務めた宮地昌幸を共同監督に迎え、「攻殻機動隊」や「PSYCHO-PASS」シリーズを手掛けたProduction I.Gが制作を担当する。
また、ボイスキャストには実力派俳優陣が顔を揃えた。アニメ声優初挑戦の堤真一(ヴァン)、竹内涼真(ホッサル)、『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』(15)では主演を務めた杏(サエ)がそれぞれのキャラクターに命を吹き込む。
いまの時代だからこそ分かち合いたい作品
本作の公開はもともと2020年9月を予定していた。この発表があったのは2019年12月のことだ。しかしその後、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い公開が2度も延期に。劇中描かれる謎の病と、奇しくもリンクしてしまった。2014年に「鹿の王」の上巻「生き残った者」がラジオドラマ化された際、ホッサルを演じた声優の鈴村健一も次のようにコメントしている。
「小説は読んだ人の数だけイメージが存在します。映像化はそのイメージを共有するということ。この時代だからこそ触れるべきこの作品をみんなで分かちあえることに大きな意味を感じます」
原作小説が発表された当時、コロナ禍にある世界を誰一人として予想していなかった。想像のものだった謎の病が具現化されたことにより、よりいっそう“この時代に触れるべき作品”になったと言えるのかもしれない。
感染症とファンタジー、壮大なテーマの映像化に賞賛
日本感染症学会指導医・評議員・感染症専門医である水野泰孝医師も、「原作者もコメントしている通り、ファンタジーとサイエンスを限られた時間の中で表現することはきわめて困難であったと思いますが、どちらも満遍なくわかりやすく伝えられていたところは大変賞賛できました。長年にわたる国や地域の文化や食生活によって獲得される免疫機能によって逃れられている感染症は実際にも散見されます。まさにいま直面しているCOVID-19にも一部当てはまるのではないかと考えてみたところです」と、本作で描かれる謎の病の蔓延とコロナ禍とのリンクを感じ取っているようだ。
原作は「本屋大賞」を受賞したほか、医療や医療制度に対する国民の理解と共感を深める目的で創設された「日本医療小説大賞」も受賞している。期待値もさることながら、医療とファンタジーという複雑なテーマを約2時間に収めることはひと筋縄ではいかなかっただろう。それを見事に映像化したアニメーターたちへの賞賛の言葉でもあると受け取ることができた。