『鹿の王 ユナと約束の旅』竹内涼真&安藤雅司監督、遂に迎えた初日!「勇気や糧になってくれたら」
2015年度の本屋大賞と日本医療小説大賞をW受賞した上橋菜穂子のベストセラー小説をアニメ映画化した『鹿の王 ユナと約束の旅』(公開中)の初日舞台挨拶が、4日に都内にて開催され、声優を務めた竹内涼真と安藤雅司監督が登壇。二度の公開延期を経て遂に迎えた初日に安藤監督も「このまま公開されないんじゃないかと(笑)。今日を迎えることができて嬉しいです」と満面の笑顔を見せた。
本作は世界を侵食する謎の病“黒狼熱”を巡るファンタジー冒険大作。「ハイキュー!!」などのProduction I.Gが制作し、『千と千尋の神隠し』や『君の名は。』などを手掛けた日本を代表するアニメーターである安藤雅司の初監督作品。竹内涼真が謎の病の治療法を探す天才医師ホッサル役を、杏が抗体を持つ者を追う暗殺者サエ役を演じている。
満席の観客を前に、安藤監督は「制作始まってから今日まで本当に長くて、コロナで製作にもかなり影響しましたし、完成してからも公開まで2回の延期で、このまま公開されないんじゃないかと思うくらいだったんですけど(笑)。今日を迎えることができてうれしいです」と緊張しながらも満面の笑顔。竹内も「すごくうれしいです」と感慨深げな表情を見せ、「この2年間公開が延期になってしまって、僕らもスタッフさんも大変な道のりだったと思いますし、スタッフの皆さんには一回お疲れさまと言いたい。いまも難しい世の中ですけど、ちゃんと観てくれたというのがうれしいですね」と話し、昨年の公開時にも宣伝稼動していた竹内だったが「結果、2倍番宣できてますから(笑)」と笑顔を見せた。
圧倒的スケールの物語から映像化不可能とも言われていた原作だが、2016年に動きだした映像化について安藤監督は「『君の名は。』の作業が終わっていないくらいの時期で、そこから取り組んで紆余曲折重ねながら作ってきた実感があります。1000ページを超える大作で、2時間におさめるというのが可能なのかと思いながら、なんとかみんなで討議を重ねていまの形になっております」とその苦労を吐露。こだわった部分については「なにを軸として置こうかなという部分、ヴァンとユナの血が繋がらない親子を中心として、図らずとも病のなかを生き抜いた、それによって周りが動きだすという話の作り方をしておけば映画として一つのまとまりが持てるかなと思ったので、その軸の部分を観て感じていただけるというのはうれしいです」とも。
また今作で声優デビューとなった竹内だが、アフレコはとても楽しかったと話し「当日に相手役の声優さんがいらっしゃって、ピンポイントで監督が欲しいキーを一発で出してくるのが衝撃で、あれが悔しくて何十回もやらせていただいたんですけど、楽しかったです」と当時を述懐すると、安藤監督が「OKテイクが既に出てるんですけど、竹内さんの方から『もう一回やらせて欲しい』と言うんです。それでやってみると、その後の方がいいという発見があって…そのうち『もう一回』と言われるのを待つようになっちゃって」と当時を回顧して笑いあい、竹内も「自分のエゴになってはいけないと思うんですけど、どうしても自分がやるホッサルとリンクしたくて。自分の声があんまり好きじゃないんですけど、やってみたらすごく楽しくって。今後も声優はやってみたいです!」と意気込んでいた。
コロナ禍の現在と相まり、劇中では考えさせられる言葉が多く出てくるが、竹内も「本当に偶然にも、いまの状況とリンクしてしまうというか…。僕が演じたホッサルは、結果、病に向き合い原点に帰ることで一つ壁を乗り越えられるんですけど、もう一回そこを見つめなおすことっていうのは大事なこと。もしかしたらいまの状況に通じるかもしれないし、そこは観てもらった方の捉え方次第ですが、偶然にリンクしてしまう部分が多いので、今作が発信する隠れたメッセージというか、皆さんそれぞれの解釈で皆さんの日常に溶け込んでいって、なにか勇気になったり糧になったりっていう広がり方をしてくれたらいいなと思います」と語る。
また、この日急遽欠席となった杏からはコメントが届き「とても元気なので駆けつけたい気持ちですが、残念ながら本日はそれが叶いませんでした。奇しくも、この作品が共通点を見出しやすい世の中になっている現況ではありますが、その分より多くの共感と勇気を得て、未来へと踏みだすきっかけとなると思います。私達のこの世界にも、鹿の王がきっと現れると信じています」と力強い言葉が語られた。
また、原作者の上橋菜穂子から手紙を受け取ったという竹内は「とりあえずホッサルの声がよかったと言っていただけたので、今日はよく寝れます。すごく褒められました!」と意気揚々な姿を見せ、さらに安藤監督からはサプライズで竹内の顔が描かれたイラストをプレゼントされると「こんなに綺麗に描いてもらったのは、初めてです!」と大喜び。「竹内さんは顔が整ってらっしゃるんで、キャラクターを描く時も綺麗な方は難しいんですけど、喜んでいただけると嬉しいです」と監督も安堵した様子で、同じく声優キャストの堤真一と杏のイラストもスクリーンに投影された。
最後には、安藤監督が「なんとか今日にこぎつけることができました。このような状況のなかで観ていただいてなにか感じる作品になっていれば。作品自体は決して単純な話ではなく考えることを求められる話。でも考えることも、いまの世の中は大事なんじゃないかと。観終わった後に、なにか発見することに繋がっていけば」と語り、竹内も「『鹿の王』から皆さんが受けるメッセージみたいなものが、日常生活の支えになればいいなと。より多くの人に今作が届けばいいなと思っています」と呼びかけた。
取材・文/富塚沙羅