池松壮亮、『ちょっと思い出しただけ』に込めた“夜明け”への願い。伊藤沙莉は「ウィノナ・ライダーの精神を受け継いでいる人」

インタビュー

池松壮亮、『ちょっと思い出しただけ』に込めた“夜明け”への願い。伊藤沙莉は「ウィノナ・ライダーの精神を受け継いでいる人」

映画の可能性を信じ、人々の心に届く作品を生みだそうと格闘している俳優の池松壮亮。2021年の7月を起点に、別れてしまった男女の6年間をさかのぼる映画『ちょっと思い出しただけ』(公開中)では、伊藤沙莉と共にほろ苦くも優しいラブストーリーに身を投じている。コロナ禍の“いま”と、カップルが暮らした“過去”をすくいとろうとする映画だが、池松はコロナ禍で世界が負った痛みに向き合いながら、「夜明けを描くものにしないと意味がないと思った」と本作に込めた想いを吐露。俳優業に打ち込むうえでは「日々、挫折しています」と苦笑いで胸の内を明かしながら、いま届けたい映画について力強く語った。

「この仕事は圧倒的に別れが多い。だからこそ再会がうれしい」

松居大悟監督の初の完全オリジナルラブストーリーとなる本作。クリープハイプの楽曲「ナイトオンザプラネット」を基に、松居監督が脚本を書きあげた。元ダンサーの照生(池松)と、タクシードライバーの葉(伊藤)を主人公とした物語で、マスクや消毒をしながら過ごすことが当たり前となったコロナ禍の日常もリアルに描き、照生の誕生日である“7月26日”という同じ日をさかのぼりながら、照生と葉の出会いと別れを浮き彫りにしていく。

同じ日を1年ごとにさかのぼりながら、照生と葉の過ごした日々が映しだされていく
同じ日を1年ごとにさかのぼりながら、照生と葉の過ごした日々が映しだされていく[c]2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会


池松と松居監督は、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)やクリープハイプのミュージックビデオ「憂、燦々」、『君が君で君だ』(18)などでこれまでにもタッグを組んできた。池松は「以前一緒にお仕事をした方と再会できることは、映画をやっていて醍醐味に感じることの一つです」としみじみ。

「この仕事って、恐らく他の職業と比べてたくさんの出会いがあって、たくさんの別れを経験します。撮影現場でお祭りのような何か月かを一緒に過ごした人たちと、別れることになる。良い現場を経験すると、『誰も欠けることなく、同じチームでまた一緒にやりたいな』と夢を見るわけですが、何十人という集合体でそんなことが叶うことってないもので。それが映画のさみしいところであり、それでもお互いに映画をやっていれば再会できる可能性がある。僕はそういった再会が大好きだし、こうして松居さんとまたご一緒できるということは本当にうれしいことです」と喜びをかみ締める。

「青春に決着をつけるような気持ちだった」という
「青春に決着をつけるような気持ちだった」という撮影/黒羽政士

近年の池松は、オール韓国ロケの主演映画『アジアの天使』(21)や、中国映画『柳川』、『1921』(21年7月中国公開)など海外での撮影が続いていたが、コロナ禍の影響で予定されていたロシアでの撮影が延期になった時期に、松居監督から本作のオファーが舞い込んだという。「松居さんとクリープハイプの尾崎世界観さんとは、僕が20代前半の頃によく3人で遊んでいました。映画を作ったり、観たり、お酒を飲んだり、旅行をしたり…。一緒に青春を過ごした人たちと再会をして、青春に決着をつけるような気持ちでした」とオファーを受けた瞬間を述懐。

またコロナ禍でミニシアターが苦境に立たされていることも、本作に飛び込む大きな理由となったと続ける。「コロナ禍では、ミニシアターの存在価値や存在意義が論議されました。いまにはじまったことではありませんが、より危機的な状況にたくさんの人が声を上げ、ミニシアターの存続を願いました。僕も映画の世界に身を置く人間としていろいろと考えていましたが、コロナ禍で映画を観に行く人が減った、映画を観たい人が減ったなど、コロナを言い訳にするのは制作側の人間として嫌だなと思いました。ましてや配信で映画を楽しめる時代になったいま、どうやってミニシアターでの映画体験を特別なものにするのかと常々考えていたこともあって。ミニシアターを主体に公開されていく本作にいま、向き合わざるを得ないなと感じました」と力を込める。

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