映画から社会への問い…オスカー俳優たちの意欲作『モーリタニアン 黒塗りの記録』をいまこそ観るべき理由

コラム

映画から社会への問い…オスカー俳優たちの意欲作『モーリタニアン 黒塗りの記録』をいまこそ観るべき理由

マーベル・シネマティック・ユニバース作品でのドクター・ストレンジ役でその人気を不動のものとし、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』では第94回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたベネディクト・カンバーバッチ。彼が原作に惚れ込み映画化を熱望し、出演と製作を兼任した『モーリタニアン 黒塗りの記録』のBlu-ray&DVDが3月25日(金)に発売、DVDレンタルが3月16日(水)に開始される。

本作の原作は、2015年に出版され世界中を騒然とさせたモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記。モーリタニア出身のスラヒは2001年9月11日に起きた同時多発テロの首謀者として身柄を拘束され、キューバのグアンタナモ収容所に拘禁された実在の人物。実際はテロにまったく関与していないにもかかわらず、裁判さえ許さないまま拷問を受け続け、2016年10月に釈放されるまで14年2か月を収容所で過ごした。

そんな彼がグアンタナモ収容所で執筆した手記は、アメリカ政府の検閲を受けることとなり、記述のほとんどが“黒塗り”にされた。そしてその塗りつぶされた不都合な真実の多さを世に知らしめるかのように、そのままの状態で出版され、世界中でベストセラーを記録したのである。

ナンシー・ホランダー役を演じるジョディ・フォスターは、本作でゴールデン・グローブ賞を受賞!
ナンシー・ホランダー役を演じるジョディ・フォスターは、本作でゴールデン・グローブ賞を受賞!The Mauritanian [c] 2021 The Mauritanian, LLC. All Rights Reserved. Artwork and Supplementary Materials [c] 2021 Eros International, Plc. All Rights Reserved

その手記に基づきながら、彼の弁護を務めた弁護士ナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)を主人公にして描かれる本作は、ナンシーがスラヒ(タハール・ラヒム)の弁護を買って出る2005年から始まる。無償奉仕活動の一環としてスラヒの弁護を行うことになったナンシーは、若手弁護士のテリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)と共にスラヒと接見。彼の受けている不当な扱いについて合衆国政府と争う構えを見せる。

一方、大統領命令によってスラヒを死刑にすることを指示された米軍は、スチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)に起訴を委ねる。親友を同時多発テロによって失ったスチュアートは、その無念を晴らそうと意気込むのだが、なぜか半端な報告書しか与えられない。またナンシーのもとにも政府に請求していた軍の調査資料がようやく届くが、その大部分が真っ黒に塗りつぶされていた。そして2人は隠された真実へと手を伸ばそうとする。


本作を手掛けたのはドキュメンタリー作家としてアカデミー賞受賞経験のあるケヴィン・マクドナルド監督
本作を手掛けたのはドキュメンタリー作家としてアカデミー賞受賞経験のあるケヴィン・マクドナルド監督写真:EVERETT/アフロ

メガホンをとったのは『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』(99)でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したケヴィン・マクドナルド監督。ドキュメンタリー作家として培われたジャーナリズム性と、スポーツ選手やアーティストなどの人物にフォーカスした作品を手掛けることで養われた的確な人物の心理表現は、劇映画でも余すところなく発揮され、とりわけウガンダの独裁者イディ・アミンを描いた『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)や、新聞記者が巨大な陰謀へと迫る『消されたヘッドライン』(08)などの社会派映画でその両面を味わうことができる。

そんな骨太な社会派映画を得意としたマクドナルド監督と豪華キャスト陣の競演によって暴かれていく、21世紀アメリカ社会の最大の闇。ここからは本作のように果敢にも真実へと切り込んでいく人々を描いた社会派映画の秀作・名作を紹介しながら、ジョディ・フォスターらキャスト陣が本作に臨むうえで抱いた“覚悟”へと迫っていきたい。

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