「ガンダム」シリーズのメカニックデザイナー石垣純哉が徹底解説!「映画ドラえもん」最新作登場メカへのこだわり
「球体センサーは、リアルではなくおもちゃっぽさをねらっています」
石垣が最も苦労したメカが、スネ夫が作った戦車、アストロ・タンクだった。映画のなかではスネ夫が途中で改造を加え、変形するギミックがプラスされるという設定。走行するだけでなく飛行モードも備え、反乱軍との激しい戦闘シーンは映画中盤の見せ場になった。
「完成までにはかなり苦労しました。原作コミックや前作ではリアルな戦車のスタイルでしたが、今作ではシルエットから変えてほしいというリクエストでした。簡単なギミックでガラッとシルエットが変わって、おもちゃにもなりやすいことが前提としてあったので、あまり凝った造りにはできない。全体のデザインや変形の仕方は、簡単なスケッチを含め思いつく限りメモを描いてやりとりしました。そのなかに、変形の時にボディが浮き沈みしてシルエットが変わるようなイメージで、少し砲塔の部分が高くなったものを描いたんです。それを山口さんが気に入ってくれて、最終的にその方向で作りました」。
変形の楽しさだけでなく、メカデザインに「ドラえもん」らしさをプラスするなど遊び心も盛り込まれた。そこにはオリジナル版を観た観客をびっくりさせたい、楽しませたいというねらいもあったそうだ。
「球体センサーは、リアルではなくおもちゃっぽさをねらっています。戦車として考えるとおかしいですが、ミリタリー重視な作品ではないですという想いで、あえて異質なデザインを入れました。丸いのはドラえもんのしっぽをイメージして、キョロキョロ動けば表情も変わっておもしろいんじゃないかと。それと戦闘機モードに変形する時、砲塔の前の部分が分離して砲身の前方にスライドさせることにしたのは、カブトムシっぽく見せたかったんです。ここは自分でも気に入っていて、『さすがだな俺』って(笑)」。
「『ドラえもん』に参加できたのはすごく大きなことだし、ブレイクスルーとなる作品」
ほかにも反乱軍の無人戦闘機や潜水艦、ヘリコプターなど多彩なメカが登場。スネ夫の作った戦闘バギーが前半にスリリングな見せ場を作った。
「このバギーはオリジナル版には出てこない今作のみのメカで、2種類デザインしました。最初は直線的な4輪タイプと曲線的な3輪タイプを提案したのですが、作画の混乱を招くとのことで2種類とも4輪タイプになりました。すべての作業を終えたのは2020年の年末ぎりぎりで、作業にかかった時間は1年ちょっと。ほかの仕事もやりながらですが、ずっと描いていた感じですね。いままで僕がやってきたちょっとハード目なメカデザインとは違って、今回は作品の世界観に合わせたつもりでいます。『ドラえもん』に参加できたのはすごく大きなことだし、自分にとってブレイクスルーとなる作品になってほしいと思っています」。
大切な人を守るために、ドラえもんやのび太たちが勇気を振り絞って戦い、成長する姿が観る者の心を揺さぶる『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』。そんな本作で展開される壮大なアドベンチャーを彩る、オリジナル版や「ドラえもん」シリーズにリスペクトを持ってデザインされたメカニックにも注目してほしい。
取材・文/神武団四郎