2022年のアカデミー賞を総括!再定義が求められる映画の祭典、アクシデントの影には数々の偉業あり
第94回アカデミー賞で注目を集めた作品と歴史的快挙
作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』(公開中)は、2021年1月にオンラインで開催されたサンダンス映画祭に出品された。上映日以降、業界誌を中心に好評が増え、観客賞など4つの賞を受賞。既に配給権が売れていたいくつかの市場(日本もそのひとつ)を除いた全世界劇場配給、配信権をApple TV+が2500万ドル(約26億円)で取得している。日本では劇場公開されているので実感がないかもしれないが、『コーダ あいのうた』はストリーミング作品として初めて作品賞を受賞した映画になる。脚色賞受賞スピーチでシアン・ヘダー監督は、サンダンス映画祭とApple TV+に感謝を述べた。「この作品を執筆し、監督することで私のアーティストとして、そして人生が変わる経験をしました。聴覚障がいを持つ方々のコミュニティに感謝いたします」。
重厚なテーマを持つ作品が多いアカデミー賞において、シンプルで温かい家族の物語は、"誰にも嫌われない"という強みで作品賞を制覇した。賞レースの序盤のフロントランナーは、Netflixの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)だったが、2月27日の第28回全米映画俳優組合賞(SAG)において、作品賞にあたるアンサンブルキャスト賞を受賞した頃から勢いを増して行った。3月7日に行われたアカデミー賞の候補者ランチョンなど大勢が集まるイベントで、他の映画のキャストが『コーダ あいのうた』のキャストと撮った写真を目にすることが増え、第33回全米製作者組合賞(PGA)でも劇場映画賞を受賞したことで確信に変わっていった。
最多受賞作品は、音響賞、撮影賞、視聴効果賞、作曲賞、編集賞、美術賞を受賞した『DUNE/デューン 砂の惑星』の6部門。そのうち5部門が放送時間外に発表されている。次いで『コーダ あいのうた』の3部門。作品賞、助演男優賞、脚色賞とノミネートされた部門のすべて受賞している。
授賞式の本来のメインイベントである受賞結果には、歴史的快挙や印象的な瞬間がいくつもあった。『ウエスト・サイド・ストーリー』(21)のアニータ役で、クイアを公表している有色人種女性として初めて助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズは、1961年版の同作でアニータ役を演じ、今作にも出演しているリタ・モレノに感謝するスピーチを行った。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンは、『ハートロッカー』(08)のキャスリン・ビグロー、『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオに続き、女性で3人目の監督賞受賞となった。スピーチでは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の製作を最初から後押ししたNetflixに感謝を述べている。聴覚障がいを持つ家族の物語『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァーが助演男優賞を受賞し、ろう者の俳優として2人目の俳優賞受賞者となった。『コーダ』で夫婦役を演じているマーリー・マトリンが、第59回アカデミー賞にて『愛は静けさの中に』(86)で主演女優賞を受賞して以来の快挙となった。