瀬々敬久監督が語る『とんび』が色褪せない理由。阿部寛の“力強さ”、北村匠海の“孤独をたたえた瞳”にも惚れ惚れ
重松清の同名小説を映画化した『とんび』(4月8日公開)のMOVIE WALKER PRESS試写会が3月31日に神楽座で開催され、瀬々敬久監督が上映後に行われたティーチインイベントに登壇した。「映画を観ていて、最初から最後まで涙が止まらない体験は初めてです」「胸がいっぱいになった」との感想が上がるなか、瀬々監督が会場からの質問に回答。劇中で親子を演じた阿部寛と北村匠海への絶大なる信頼感や、本作に込めた想いを明かした。
『護られなかった者たちへ』(21)の瀬々監督と『宮本から君へ』(19)の脚本家・港岳彦がタッグを組んだ本作。主人公の破天荒ながら愛すべき父のヤス役を阿部、ヤスの息子であるアキラ役を北村が演じ、いつの世も変わらない親子の絆を描く。
原作は長く愛され続けている小説とあって、これまでにも2度テレビドラマ化されている。原作とテレビドラマは平成の入り口で終わるが、映画では令和の時代までがオリジナルとして描かれている点も見どころだ。瀬々監督は“ヤスの一生”を描くうえで「『無法松の一生』のような映画にしたい」と思っていたという。「アキラは重松さんの分身」と語り、重松のエッセイも参考にしながらその部分に臨んだと語っていた。
役者の魅力について質問が上がると、瀬々監督は『護られなかった者たちへ』(21)でもタッグを組んでいた阿部寛について、絶妙なバランスでヤスを演じきってくれたと絶賛。「阿部さんは『テルマエ・ロマエ』や『トリック』などで演じたフィクション性の高い役でメジャーになってきたと思うんです。今回のヤスもちょっとぶっ飛んだ性格で、フィクション度も高いんだけれど、それを“人間である”、“普通の人である”という絶妙なバランスで演じてくれた。バーッと豪快なところと、ちゃんと地に足のついた親子の情愛も表現してくれた」と称えた。
さらに雪の降る海で、近所に住む住職の海雲(麿赤兒)からヤスが励まされる前半の名シーンに触れ、「あのシーンの撮影の時は波がすごくて。海雲の声が、実はほとんど聞こえなかったんです(苦笑)。それでも阿部さんは麿赤兒さんの演技にしっかりと反応して、涙を流してくれた。それを見て『すごいな』と思いましたね。すばらしい俳優」と阿部の役者力に惚れ惚れとしながら、「『護られなかった者たちへ』では(主演として)佐藤健がいて、阿部さんはフラットな感じで『なんでも来い』という受け止めるようにやっていた。今回は自分が主演なので、待ち時間も含め、座長としてすべてを牽引していた。その姿はパワフルでした」と裏話を披露していた。
一方、アキラ役の北村について瀬々監督は「目がすばらしい」とにっこり。「優しそうな眼差しなんだけれど、なんだかその瞳の奥に孤独感が漂っている。どこか寂しげである。そこがいいなと思ったところなんです。普段は、おとなしめで穏やかなんです。それがいざ、カメラの前に立つとパッとテンションが上がる」と驚くほどの瞬発力を目にしたそう。アキラがヤスに怒りをぶつけるシーンを振り返りながら、「あそこは阿部さんもビビっているくらいだった(笑)。彼は歌も歌っているから、喜怒哀楽や人間の機微といったものを自然とつかんでいるのかなという感じがすごくしました」と印象を明かし、「彼の声のトーンもすばらしい」と話していた。