コラム 2022/4/24 19:00

“90年代”東京のアンダーグラウンドに迷い込む…ハリウッド共同制作ドラマ「TOKYO VICE」に通じるディープな邦画たち

甘く危険な街に溶け込むティーンエイジャーたち

「TOKYO VICE」では、ジェイクの目を通して、街全体の風景も映しだされていく。街を歩く人たちも90年代を彷彿とさせるファッションに身を包み、90年代の代表格とも言える、茶髪に細い眉毛、肌をこんがりと焼いた女子中高生、通称“コギャル”の姿も見受けられる。そこで90年代のティ―ンエイジャーを映した作品に触れておきたい。

90年代の不穏な空気とティーンエイジャーたちの閉塞感を伝えているのが、岡﨑京子による93年の同名コミックを『劇場』(20)などの行定勲監督が映画化した『リバーズ・エッジ』(18)だ。都市に生きる若者たちのどこにもぶつけることのできない不安や欲望、生きづらさを二階堂ふみ、吉沢亮などが等身大で体現。「HYSTERIC GLAMOUR」などの当時のitブランドも巧みに取り入れ、どこか達観した、いまよりも大人っぽい高校生たちに息を吹き込んでいる。

90年代の女子高生たちのムーブメントをもっと知りたいなら、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)を観るといい。広瀬すず、山本舞香、池田エライザらが90年代のコギャルを演じた過去パートでは、ルーズソックスを履いた彼女たちが人気ギャルショップのショップバックを持って、伝説のギャルファッション雑誌の「eggポーズ」にも挑戦！『リバーズ・エッジ』とは真逆のリアルを感じることができる。

バブル時代の華やかな躍動感と崩壊後の絶望

【写真を見る】山下智久が謎めいたカリスマホストのアキラ役で登場！アンセル・エルゴート、渡辺謙ら日米スターたちとアンダーグランドの東京を描く[c]HBO Max / James Lisle

すべての写真を見る(14件)

「TOKYO VICE」でジェイクは、やがてヤクザの若きリーダー、佐藤(笠松)と意気投合し、東京の裏社会にさらに深く入り込む。謎めいたカリスマホストのアキラ(山下) は物語の要所に登場し、存在感を残す。その無秩序な世界観は、石井隆監督の伝説のバイオレンス映画『GONIN』(95)のそれに近いかもしれない。

バブル崩壊で多額の借金を背負い込んだディスコの元オーナー(佐藤浩市)、会社をリストラされた元サラリーマン(竹中直人)など行き場を失った5人の男たちが、暴力団の事務所を襲撃して大金を強奪する計画を実行に移す。廃墟となったディスコで繰り広げられるそのバイオレンスシーンを見れば、90年代の夢の終焉と恐ろしい現実をまざまざと肌で感じることができる。

バブル崩壊で世間からはみ出してしまった5人の男たちが仕組んだ強盗計画を描いた『GONIN』DVD　発売中　価格：3,080円(税込)　松竹　[c]1995松竹株式会社　(2022年4月時点情報)

バブルで浮かれていた90年代も知りたいなら、バブル崩壊を食い止めるために1990年へのタイムトラベルを描いた『バブルへGO!!　タイムマシンはドラム式』(06)がオススメだ。ワンレン・ボディコン、ソバージュヘア、ディスコ・ブームや船上パーティなどなど当時の若者の風俗や流行、アイテムを忠実に再現。知らない人は、誰もが浮き足立っていた嘘みたいな世界に呆れるかもしれない。

のん気でアッパー気味な就職活動から覗く若者の生き方

「TOKYO VOICE」では、古びた居酒屋の2階にある部屋で暮らすジェイクが、英会話の講師のバイトをしながら猛勉強し、新聞社の就職試験に挑む姿もスピーディに描かれる。いくつもの設問に日本語で答え、漢字とひらがなで論文を書いていくジェイク役のエルゴートにも目を見張るが、織田裕二が主演した『就職戦線異状なし』(91)はそんな90年代の就職活動の一面をリアルに描いていた。

内定を目指して疾走する大学4年生を馬に見立てた「就職杯内定獲得レース」に金を賭ける者がいるかと思えば、マスコミ業界に就職していい女といい車を手に入れるのが夢の者や、親のコネで大手代理店の内々定を早々と取りつけている者までいる。だか、全員が現代と違ってどこかのん気でアッパー気味。『就職戦線異状なし』で映しだされた、オープンカーで六本木のディスコに向かい、高級シャンパンで内定を祝い合う90年代の若者たちは、スマホを片手に情報収集し、スマートに就職戦線を勝ち抜くいまの同世代とは明らかに違う。ジェイクは、そんないまとは違う90年代の東京で生き、勝つ抜くことを自分に強いるのだ。

あのころの恋と仕事とは？90年代を生きた若者たちのリアル