「TOKYO VICE」渡辺謙が語る“1990年代”東京とそこに生きる人々…「人間の精神構造や社会構造にものすごく大きな変化を及ぼした」
「刑事もヤクザも新聞記者も、時代に即したキャラクターを探った」
そんな渡辺自身は、90年代をどう捉えているのか?この時代の印象について尋ねると、「アナログからデジタルに移行する過渡期だったと思います」と瞬時に返ってきた。「テクノロジーだけじゃなく、人間の精神構造や社会構造にもものすごく大きな変化を及ぼした時代です。僕が演じた刑事の世界では科学捜査が出始めたころ。現場100回とか、足で稼ぐ古いスタイルが残っているような時代なので、脚本をチェックする時は、刑事もヤクザも新聞記者も、時代に即したキャラクターを探りました」。
「片桐も、そういう意味では古いタイプの刑事だと思います」と、言葉をつなぐ。「ちょっとワイルドな佇まいで賄賂も使ったりして。向かう相手がやっぱり、そういう社会のルールからはみ出した人たちだから、どうしてもそうならざるを得ない。言ってしまえば、ヤクザと刑事の違いが曖昧で、いったいどっちが怖いんだろう?みたいな感じになればいいなと思って演じていました」。
「当時のヒューマニティを『TOKYO VICE』ではいいも悪いも含めて描ける」
「TOKYO VICE」は濃密な群像劇であるのと同時に、90年代の東京そのものが主人公になっている。「『夢をもう一度』なんて言うつもりはさらさらないのよ」と断ったうえで、本作に込めた想いを渡辺は以下のように語る。
「例えばあの時代のヤクザは、個人も組織としてもすごく本能的に生きていた。それゆえにノーマルな社会と相容れない部分もあったのですが、とても人間的だったような気がするんですよ。そこは新聞記者や刑事も同じで、いまは非常にシステマチックになりすぎちゃっているけれど、やっぱり当時はとても人間的だった。そのヒューマニティを、この『TOKYO VICE』ではいいも悪いも含めて描けるだろうなという確信みたいなものがあったんです。それこそ、彼らのドラマが途中からものすごくうねります。それが相当厚みのあるものになっているので、楽しみにしていてください」。
また、東京で映画やドラマの撮影をすることは非常に難しい状況でも、ロケーションによるリアルな画作りを追求し、「TOKYO VICE」は完成した。最後に、東京を取り巻くロケ撮影の実情と、本作が切り拓いた可能性を聞いてみた。
「以前、私が主演とエグゼクティブ・プロデューサーを務めた『明日の記憶』で、初めて高速道路や新宿駅での撮影許可を取ることができたのですが、非常に高いハードルを越えないといけませんでした。重要なことは、映画やドラマが大事な文化なんだ、ということを行政にも理解いただいて、できるだけハードルを下げてもらう。そして、僕らもルールをちゃんと守って撮影をすることだと考えています。こうやって地道に良好な関係性を築いていくことで、相互理解が深まればいいなと思います。できれば、『TOKYO VICE』が次のハードルを下げてくれる要因になればうれしいですね」。
取材・文/イソガイマサト
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■衣装協力
衣装:BRUNELLO CUCINELLI(ブルネロ クチネリ ジャパン株式会社 03-5276-7080)
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