スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンが愛した神秘の島とは?創作意欲がくすぐられる“ベルイマン島”が壮観
イングマール・ベルイマンゆかりの場所で創作活動に打ち込めるベルイマン・エステート
2007年、ベルイマンの死後に「ベルイマン財団」が設立され、彼の邸宅を当時のままに保存。ベルイマンの望みに従って、フォーレ島の自然と文化、歴史と住民を尊重しながら運営されている。4軒の家と1軒の映画館から成る「ベルイマン・エステート」は、仕事やインスピレーションの場として、世界中の芸術家、学者、ジャーナリスト、デザイナーたちに向けて開放され、彼らが滞在しながら、それぞれの創作活動や研究に打ち込むことができるアーティスト・レジデンスだ。そのうち、ハマーズにある本館は、ベルイマンの個人宅兼仕事場だった。滞在期間は2週間以上2か月以内で、申請時に文化的・芸術的な貢献でコミュニティへ還元する方法をプレゼンし、申請が通ると無料で宿泊施設に滞在することができる。
劇中ではクリスとトニーが、ベルイマン・エステートの制度を利用しているという設定。実は監督のハンセン=ラブ本人もこの滞在制度を使い、2010年代の半ばから、ひと夏ごとにフォーレ島に滞在し、本作の準備と制作を進めてきた。申請するプロジェクトは必ずしもベルイマンの作品に関連している必要はなく、ベルイマンと直接関係のある脚本に取り組んだのは、本作が初めてだという。
撮影にも使われたベルイマンの家や試写室も
クリスとトニーが宿泊する家の住所はフォーレのデンバ2078。移動時間はフェリーを降りた港から車で2時間弱。2人を待っていた家の管理人の女性は「道を聞いても教えてもらえない。島民とベルイマンの秘密協定よ」と言うが、この言葉が事実であることは、のちにクリスが住民に、ベルイマン作品のロケ地の場所を聞いた時の彼らの反応で証明される。
白い外壁に茶色の三角屋根の家には自転車が用意されていて、近くの海をはじめ、いろいろな場所を自転車で自由に回ることができるのも便利だ。リビングルームにはベルイマンの4番目の妻であり、一流ピアニストだったケビ=ラレティのグランドピアノが置かれている。そして、主寝室はなんとベルイマンが有名なテレビドラマ「ある結婚の風景」(73)を撮った場所であることが判明。放映後に北欧での離婚率が急激に上がったという、いわくつきの作品だけに、クリスがこの部屋で寝ることに躊躇するシーンがおかしい。
家の向かいには風車小屋が建っていて、クリスはここを自分の仕事場に選ぶ。そばにある白い外壁に赤いドアの家は、ベルイマンの試写室で、毎年6月には「ベルイマン週間」と称して、フィルム上映会が開催される。試写室でクリスとトニーが、どのベルイマン作品を観ようかと話し合うシーンでは、『不良少女モニカ』(52)、『叫びとささやき』(72)、『リハーサルの後で』(84)、『サラバンド』(03)など多くのタイトルがポンポンと言及され、ファンを喜ばせてくれる。ちなみに試写室では、ベルイマンの定席は空けておくのがお約束だ。