『ハケンアニメ!』に「かがみの孤城」…さわやかな“白辻村”とダークな“黒辻村”、どちらも魅力の“辻村深月ワールド”に迫る
映画化された「ツナグ」に「朝が来る」。『映画ドラえもん』の脚本も担当
藤子・F・不二雄の大ファンで、「ドラえもん」をこよなく愛し、マンガやゲームなどのサブカルにも精通している辻村が生みだす作品は、映画化、ドラマ化、舞台化、マンガ化されることも多い。そのなかでも、これまでに映画になった作品は4つある。
まずは、平川雄一朗が監督を務め、松坂桃李が主演したファンタジー『ツナグ』(12)。映画版では、生涯でただ1度の死者との再会を叶えてくれる使者(ツナグ)を主人公に、3組6人のエピソードが同時に進んでいく。“ツナグ”の見習い青年を演じた松坂は本作で第36回日本アカデミー賞新人俳優賞、第22回日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞し、作品自体も高い評価を受けた。
高校を卒業して10年、かつての同級生男女の痛みに満ちた過去と現在が交錯するヒューマンドラマ『太陽の坐る場所』(14)では、水川あさみと木村文乃が共演し話題に。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(19)は、藤子・F・不二雄の想いを継ぐクリエイターとして、辻村が脚本を担当した記念すべきアニメーション作品。辻村は同作品のノベライズ本も執筆している。
特別養子縁組をテーマに描き、新境地を拓いた社会派ミステリー「朝が来る」は、2020年に永作博美、井浦新主演で映画化され、第44回日本アカデミー賞をはじめ、数多くの賞を受賞。映画化の前、2016年には安田成美主演で連続ドラマにもなっている。
アニメーション業界への綿密な取材によって生みだされた「ハケンアニメ!」
そして、5作目の映画化となるのが、今回の『ハケンアニメ!』。原作が連載された「anan」のカラーもあり、辻村作品のなかでもとりわけエンタテインメント性が高く、働く若い女性を応援してくれる爽快なお仕事小説としての魅力に満ちている。目標に向かって必死に働きながら、たくましく成長していく魅力的なキャラクターがたくさん登場し、読んだ後に、明るくポジティブな気持ちになれる本作は、まさに“白辻村”の代表格といえるだろう。
ちなみに連載時のカラー挿絵と、単行本化の際の描き下ろし装画を担当したのは、辻村が10代の頃から大好きだったマンガ「聖伝-RG VEDA-」や「東京BABYLON」の作者である、創作集団CLAMP。辻村自身が大きな影響を受けたというCLAMPとの週刊連載は、ファンにはたまらないコラボレーションでもあった。
もともとアニメ好きな辻村は、本作の執筆にあたって、アニメーション制作に携わる多くの人々への綿密な取材を敢行。その取材に基づいて、ゼロからものを生みだす監督を中心に、監督の理想を実現すべく奮闘する声優、アニメーター、プロデューサーなど、様々な立場の仕事の内容と難しさ、各々が持つこだわりやプライドを鮮やかに描ききった。