『ハケンアニメ!』に「かがみの孤城」…さわやかな“白辻村”とダークな“黒辻村”、どちらも魅力の“辻村深月ワールド”に迫る
オムニバス形式の群像劇だった原作を瞳と王子の対決にフォーカス!
映画の監督を務めた吉野は、人間を描く力とCGを駆使した映像表現の組み合わせを得意とする映像クリエイター。本作では、実写パートとアニメパートのハイブリッドで、原作の世界観を映像で生き生きとよみがえらせることに成功している。
辻村も企画・脚本開発段階から意見を提供するなど、映画製作に積極的に協力。特に劇中に登場する2つのアニメ、「サバク」と「リデル」の制作チームが、より具体的にそれぞれの作品のイメージを構築できるようにと、劇中では一部しか描かれないにもかかわらず、2作品計24話分のプロットを作成したという。
双方とも“覇権”を取るようなクオリティの作品である、という設定に説得力を持たせる完成度の高いアニメを制作したのは、「攻殻機動隊」シリーズなどで知られるProduction I.G.をはじめ、日本を代表するアニメプロダクションやトップクリエイターたち。声優キャストには、梶裕貴や潘めぐみ、高橋李依、花澤香菜など超一流のメンバーが集結した。原作を読んで、「実際のアニメが観たい!」と感じた読者の贅沢な夢が見事に叶えられている。
また原作は、プロデューサーの香屋子、新人監督の瞳、アニメーターの和奈の3人それぞれの視点で描くオムニバス形式の群像劇だったが、映画版では瞳を主人公に、ライバルである王子との対決の要素を強調。いくつもの苦境や葛藤を乗り越えながら、アニメ界の頂点を目指す熱血ドラマとしての醍醐味も表現することで、より幅広い層の心に響く作品に仕上がっている。アニメファンやクリエイティブな世界に興味のある人はもちろん、世代を超えて、日々仕事や勉強をがんばっている人や、なにか好きなものがある人、現代を生きるすべての人を勇気づけてくれるパワフルな作品だ。
辻村作品は本作以降も、初期作品を思わせる思春期特有の繊細な感情を描いたファンタジーミステリー「かがみの孤城」の劇場アニメが、2022年冬の公開を控えている。最高傑作と呼ばれる作品が次々と更新される辻村深月ワールドは、様々なクリエイターとのコラボレーションによる化学反応を見せながら、ますます進化し、広がっていくに違いない。
文/石塚圭子