小島秀夫が2009年に起きた『アバター』ブームを分析「大ヒットした要因は、やはりプロットのうまさ」
ジェームズ・キャメロンが監督、脚本、製作を務め、2009年に公開され、いまなお歴代世界興行収入1位に君臨するSF映画の金字塔『アバター』。キャメロンが自ら開発した3Dカメラを駆使し、驚異のクオリティを実現した3D映画として知られる本作は、日本でも156億円の興行収入をたたき出し、社会現象を巻き起こした。その続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(12月16日公開)の公開を前に、キャメロンが創造した世界を、13年の時を経た最新技術の3D映像で一新、なおかつ重要なシーンを追加した特別版『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』が9月23日(金・祝)より2週間限定で上映される。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』への期待がますます高まるなか、『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』の公開を記念して、ゲームクリエイターの小島秀夫に『アバター』での映像体験と続編への期待、そしてジェームズ・キャメロンへの想いをたっぷりと語ってもらった。
「ジェームズ・キャメロン以上に3Dをうまく使った監督はいなかったと思う」
『アバター』は“3D映画”でありながら、「それまでの3D映画とは異なる方向性を持った“奥行き”を狙った世界観を持っていた」と小島は振り返る。「それまでは“飛びだす”ことに重きをおいたアトラクション的な演出と効果がほとんどでしたが、キャメロンは神秘の星“パンドラ”をリアルに魅せる“深み”を計算して、絵を創っていました。あの3Dは目に優しかったのもよかった。その後、多くのフォロワーを生み、3D映画ブームが隆盛を極めましたが、彼以上に3Dをうまく使った監督はいなかったと思います。興行的に数字を伸ばせるというので、ただ闇雲に3D化しただけの作品があふれました。それもあって、3D映画は廃れてしまったのでしょう」。
世界興収1位を記録するほどの大ヒットとなった要因は「やはり、プロットのうまさでしょうか」と小島は分析する。「元海兵隊員が戦場で負傷、無重量空間で下半身不随の主人公が登場する冒頭から入り、やがてアバターを使って自身の身体能力を再び取り戻せる世界に出会う。そして、そこで出会った仲間たちと新世界のために旧世界の侵略と戦う。傷ついた人間の再生、新たに見つけた友情、恋愛、家族、故郷。まさにアメリカ的な共感を得る流れだと思います。そして、環境問題という世界共通のマクロなテーマを描いているからだと。“家族”というミクロと、“世界”というマクロのテーマが併存しているからこそ、国境も民族も人種もジェンダーも超えて、共感するのだと思います。異世界を描きつつも、非常にわかりやすい」。
「海中でのパフォーマンスキャプチャーなど、数段先の次元に挑戦している」
続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では、物語の舞台が“森”から“海”へと移る。「過去には森の表現もCGでは避けたい状況にありました。波や海、海中での表現はCGIにとっては最も苦手な部分です。キャメロンはこれまでも、『アビス』や『タイタニック』などで水の表現に挑戦はしてきたと思いますが、(噂で聞いたところによると)海中でのパフォーマンスキャプチャーなど、数段先の次元に挑戦しているようです。そのあたりは製作者としても、すごく楽しみです。キャメロンは自分たちで潜水用具を開発したり、沈没しているタイタニック号を見にいったりと、もともと水棲人(ホモ・アクアティクス)ですから、本領発揮が期待されます。また“家族”がテーマというのもキャメロンとしては、ブレのないところだと思います。暴力を描きたいのではなく、彼はこれまでも、愛する者のために闘うキャラクターたちを描いてきたからです。予告編ではアバターたちと人間の少年が同じ家族として描かれていたようで、同族だけではない、“人類愛“が垣間見える。そこも楽しみです」。
1963年、東京都生まれ。ゲームクリエイター、株式会社コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた「メタルギア」でゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。独立後初作品となる「DEATH STRANDING」ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥなど世界的名優たちを起用。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンタテインメントへも、創作領域を広げている。