古川琴音が「映してもらってよかった」と感じた“泣き顔”。演技に誠実な女優が、撮影現場で得たものとは?

インタビュー

古川琴音が「映してもらってよかった」と感じた“泣き顔”。演技に誠実な女優が、撮影現場で得たものとは?

幼いころからバレエを習っていたせいか、華奢ながら背筋がスッと伸び、大振りな花モチーフがついたパンツスーツに、メタリックのヒールがまばゆいサンダルも見事に履きこなしている。「プライベートではスニーカーや厚底靴を履くことが多い」という古川琴音に、トレードマークとも言える“眉の上で短く切りそろえた前髪”の理由を尋ねると、「もともとずっとこの髪型なんです。さっぱりしていて、邪魔にならないから」と笑い、「役の上でも『そのままで』とオーダーされることが多いんです」と、耳に残るあのキュートな話し方で明かしてくれた。

映画、ドラマ、舞台と活躍の場を広げている古川琴音
映画、ドラマ、舞台と活躍の場を広げている古川琴音撮影/垂水佳菜

「自分でも言葉でうまく説明できないような、複雑な感情が見えればいいな」

国内外でヒットを記録している一条岬の同名恋愛小説を、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)など、数々の恋愛映画を手掛けてきた名手、三木孝浩監督が実写化した『今夜、世界からこの恋が消えても』(公開中)。古川が演じた泉は、交通事故をきっかけに、眠りにつくと記憶を失ってしまう難病「前向性健忘」を患ってしまった日野真織(福原莉子)のことを、クラスメイトの神谷透(道枝駿佑)と共に献身的に支える親友役だ。物語の後半に明らかになるある事情から、三木監督いわく「十字架を背負っている」というほどに、苦難に満ちた役回りを担っている。

『今夜、世界からこの恋が消えても』は公開中
『今夜、世界からこの恋が消えても』は公開中[c]2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

脚本に『君の膵臓をたべたい』(17)や『君は月夜に光り輝く』(19)の月川翔と、『明け方の若者たち』(21)の松本花奈が名を連ね、“恋愛映画最強の布陣”で製作された本作だけに、「本当は、自分ももっとキラキラした青春を経験できると思っていたんです」という古川。「久々に制服を着られるというのも楽しみでしたし、中学~高校くらいの恋愛は特別だと思うので。そういう物語の中に入れるのはうれしいなあと思っていたんですけど、まさかこんなに矢面に立って苦しむ役どころになるとは思いませんでした(笑)」と本音が飛びだした。


そんな自身の役どころについて、古川は、「真織の騎士(ナイト)的な立ち位置」であり、「真織を守ることで、どこか自分の存在意義を満たしている部分もある気がします」と分析する。さらに、道枝扮する神谷がクラスメイトに流されるまま“嘘の告白”をしたことをきっかけに真織と条件付きの交際を始めたことで、「神谷に対して、同じ悩みを共有する相手ができた安堵感のような気持ちもあれば、『真織を取られてしまうかもしれない』といった嫉妬みたいな感情もあるかもしれない。自分でも言葉でうまく説明できないような、複雑な感情が見えればいいなと思いながら演じました」と振り返る。

親友を大切に想うがゆえ、真織と付き合った透の真意を疑う泉
親友を大切に想うがゆえ、真織と付き合った透の真意を疑う泉[c]2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

「まさに泉の“足掻き”が真織を支えていて、ある意味美しく映っていたし、映してもらってよかった」

三木組では、クランクイン前に役者に“覚書”を渡すのが恒例になっているとよく耳にするが、御多分に漏れず古川も、三木監督から手紙を受け取ったという。「泉を演じる上でのお守りになるような言葉がたくさん書かれていたので、自分だけのものにしておきたい部分もあるんですが…」とにっこり。手紙に基づき現場で演じ、完成した作品を観て「手紙どおりになってる!」と実感したそうだ。

「記憶って、足かせにも、背中を押す原動力にもなり得るもの。そんな『記憶が持つ複雑性にいち早く気づいてしまった少年少女の“足掻き”を映したい』という言葉が、三木監督からいただいたお手紙のなかでも一番心に響きました。綺麗な物語ではあるんですが、決して綺麗なだけではない、人間臭さみたいなものも監督が愛していることが伝わってきましたし、現場でも、苦しい記憶のなかにある美しい一瞬を逃さないように、みんなが集中していたんです」

「キラキラした青春を味わえると思ったんですが…」と笑いながらも、泉役について語った古川琴音
「キラキラした青春を味わえると思ったんですが…」と笑いながらも、泉役について語った古川琴音撮影/垂水佳菜

物語の終盤、それまでは気丈に振る舞っていた泉が、感情をあらわにして泣き顔を見せる場面が登場する。「演じている時は、自分では『この苦しい顔は、あまり人に見られたくないな』って思っていたんですけど、いざ出来上がった作品を通して観てみたら、そのグチャグチャこそが美しいというか。監督が事前にお手紙に書かれていたように、まさに泉の“足掻き”が真織を支えていて、ある意味美しく映っていたし、映してもらってよかったなあと思いました。あのシーンは、現場で何回も撮り直したから、すごく記憶に残っているんです。ずっと泉が背負っていた十字架を、いったいどう降ろして、泉の物語をどう終わらせるか。ものすごく苦しい場面でしたけど、三木監督も親身になって一緒に考えてくださいました」。

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