『夏へのトンネル、さよならの出口』制作スタジオCLAPに潜入!プロデューサー&監督が語る、唯一無二な作品への挑戦
「制作フローの見直しが必要なのかなと、今作で新しい課題が出てきました」(田口)
スタジオ見学後には、松尾プロデューサーと田口監督のインタビューを実施。本作の制作で挑戦した”リムライト”と呼ばれる技術など、アニメ制作のテクニックの話からスタジオの今後の展望まで語ってもらった。
――仕上げ作業は大詰めだったとのことですが、本作での特徴的な表現や演出を教えてください。
田口「一つは光の照り返しを使うこと、リムライト(裏からの光を当てることによって光が回り込み、人物の輪郭が強調される効果をつけること)のような表現をしようと考えていました。もう一つはトンネルの中をフル3Dで描くこと。2Dの作画のなかに3Dをいかに違和感ないよう、なじませて演出できるかということに挑戦しています。うまくいっていることを祈りながら最終調整をしているところですが、思ったようにはいかなくて課題は山積みになっている気がしています。アニメーションの作り手としての自分の課題です」
松尾「かなり難しいことをやろうとしているなと思いました。リムライトはある程度工程が進んだ段階でないと、出来栄えをチェックすることができないですし」
田口「現場の進み具合や時間の都合で対応が変わってくる工程なので、試行錯誤しました。レイアウト(絵コンテをもとに作成される画面の構図。キャラクターの配置や背景が描かれている)に背景担当がいろいろな色を入れて、光の反射を入れてくるなかで、どの段階でどこにリムライトをかければ最適に見えるかというタイミングが非常に見えにくて」
松尾「『映画大好きポンポさん』にも「影中色トレス」という特殊な処理がありますが、リムライトはまた違うアプローチで面白いチャレンジだと思いますね」
田口「実写ならその場で反射板を入れたり、ライトを当てる向きまでその場で判断し、調整しながら画作りができるけれど、アニメはいわゆる部署、工程が前に進んでいかない限りはどういう見え方をするのかはわかりません。セルが揃いました、背景も揃いました、撮影も終わりました、という段階で『こんなにつけなくてもいいんじゃないか』とか『もっと内側にあったほうが絶対映えそうだな』って感じてしまうのです。制作フロー自体を変えなければいけないのかな、というのは、今回僕のなかで出てきた課題のひとつです。ここはアニメーションの作り手として、極めたい部分でもあるので、今回生まれた課題と考えるようにしています。次回作に持ち越しです(笑)」
松尾「アニメーション制作って、課題があるからまた新しい作品を作る、みたいなところがありますからね(笑)」
――アニメーションスタジオにはそれぞれ映像が美しい、アクションが強いなど特徴があります。監督が感じるCLAPらしさを教えてください。
田口「松尾さんがグイグイくるなって思いました」
松尾「そうでしたか?」
田口「本作は、背景のクオリティに関しては松尾さんのリクエストに釣られて、どんどん上がっていった気がします」
松尾「本作は田口監督と『美しい作品にしよう!』という共通認識がありました。それを支えるのは、繊細なキャラクターデザインと色、そして美しい背景になります。そこが担保されていなければならない。だからこそ、こだわったというか、確認と調整は何度もしたかもしれないです。田口監督とのお仕事は初めてで、監督は背景チェック時に率直に本音が言えてないかもしれないとも思ったので。『OKと言ってたけど、本当に大丈夫?』という確認は多かったかもですね」
田口「そうそう、そういう意味でのグイグイです。言われた側としてはドキっとする部分もありました。『見透かされちゃったかな』みたいな感じがして。さすが当代きってのアニメプロデューサーだなと実感しました」
松尾「やめてくださいよ。褒められているのかどうなのか…(笑)」