“韓国トップスター”役のファン・ジョンミン、ニコラス・ケイジのセルフオマージュ…“俳優が本人役”映画のおもしろさ
日本での韓国映画ブームのはしりとなった『シュリ』(99)のころから映画に出続け、累計動員観客数が1億人を超えた“1億俳優”とも呼ばれるファン・ジョンミン。韓国が誇るこのトップスターは、気のいいヤクザの兄貴分を演じた『新しき世界』(13)、熱血刑事役の『ベテラン』(15)、クセの強い祈祷師に扮した『哭声/コクソン』(16)、極悪市長を体現した『アシュラ』(16)などで作品ごとにまったく異なる印象を観る者に与えてきた。
主演最新作『人質 韓国トップスター誘拐事件』(公開中)では、カメレオン俳優なイメージを逆手に取り、なんと自分自身を演じている。本稿では、そんな俳優が本人役を演じる作品をいくつか取り上げていきたい。
誘拐されたファン・ジョンミンが演技力を武器に奮闘!
中国で俳優のウー・ルオプーが誘拐された事件が基になっている『人質 韓国トップスター誘拐事件』。この事件は中国で一度『誘拐捜査』(15)という映画になり、その際はアンディ・ラウが誘拐される俳優役を演じ、実際の事件の被害者であるウー・ルオプーが捜査を行う刑事役で出演した。
そして新たに映画化された『人質 韓国トップスター誘拐事件』。新作の記者会見の帰宅途中、何者かに拉致されたファン・ジョンミンは、パイプ椅子に縛られた状態で目を覚まし、大金目当てで誘拐されたことを知る。犯人グループが顔を隠さないことから、金を振り込んでも命はないと悟ったジョンミンは、なんとか生き延びるため、様々な戦いを仕掛けていく。
アクション俳優であれば肉体で犯人に立ち向かうこともできるが、ジョンミンは演技派のため、唯一の武器である演技力を頼りに犯人たちに揺さぶりをかけていく。監禁中に心臓病を発症してしまい、よだれを垂らして白目を剥き、失禁までしてしまうが、はたして本当なのか?犯人だけでなく、観客も騙されてしまうはずだ。
また、自らの過去の出演作にまつわる手段で誘拐を伝えるメッセージを送ったり、その伝言相手が数々の作品で共演している弟的存在のパク・ソンウンだったり、“赤ら顔”という彼の特徴が監禁場所の特定に伝わったり…。本人設定ならではの要素がストーリーを動かしていく。
さらに犯人グループのファンにせがまれて、過去作の名セリフを言わされるといったサービスギャグまで。モキュメンタリーとも異なるテイストの作品のなかで、本人という難役をナチュラルに体現する演技はさすがの一言だ。