山崎貴監督、“惑星観光映画”と『アバター』を称賛「映画のチケット代で宇宙の果てまで連れて行ってくれた」
「観客を驚かすためではなく、“感情と映像を結びつけるための装置”としてVFXを使っています」
VFXクルーとしてキャリアをスタートし、監督デビューを飾ったキャメロン。同じくVFXクリエイターでもある山崎監督は、キャメロンを「VFXを大切にしている監督」だと説明する。「キャメロンは、技術を見せつけて観客を驚かすためではなく、“感情と映像を結びつけるための装置”としてVFXを使っています。『ターミネーター2』でも、キャラクターの怖さを出すためにCGを使っていました。『ただ映像としてすごいだけのVFXではダメだ』と、最初に気づいた監督なんじゃないでしょうか」。
自ら脚本を書くのも、VFXのためではないかと続ける。「技術的な知識がなければ、VFXを活かした脚本を書くのは困難です。キャメロンが自分で脚本を書き続けているのも、技術畑だからこそ。VFXを最大限に活かす映画作りのためだと思います」。
キャメロンと言えば超大作のイメージが定着しているが、VFXを熟知しているからこそ、実は製作費も抑えられているのではないか?と山崎監督。「ビッグバジェットの超大作を作る監督、と思われていると思いますが、もともと低予算のB級映画で知られるロジャー・コーマンのもとで映画を作っていたので、効率的に予算を使う方法を考え抜いて撮影しているはずなんです。おそらく、ほかの監督が『タイタニック』や『アバター』を撮ろうとしたら、もっと莫大な予算がかかっていたかもしれませんね」。
「キャメロンは、記憶に残るキャラクターとして見せることに長けている」
画家としても才能を発揮しているキャメロンだが、キャラクターデザイナーとしては「“超一流”と言い難い…」とのこと。ただし、動く姿を目にした時、その印象は一変したと振り返る。「シーン構成や動かし方がめちゃくちゃうまいので、映画のなかではみんなかっこよく見えるんです。『E.T.』もそうでしたが、ちょっと気味が悪かったり、不気味に思えていたものがそうではなくなる“変化の階段”をお客さんに上らせることで、親愛感を高めているんです。例えばシド・ミードのデザインだと、最初からかっこよすぎる(笑)。観客の心の成長がないとも言えます。キャメロンは、記憶に残るキャラクターとして見せることに長けている。僕も自分でデザインまでやりがちなので、自戒も込めてということで(笑)」。
少年時代からSFに傾倒してきたキャメロンは、映画作りにおいて「スター・ウォーズ」からの影響を認めている。山崎監督は『アバター』にもそれが見て取れると指摘する。「ナヴィがテクノロジーに打ち克つ姿は、まるで『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』のイウォークに重なりますね。ちょっとストーリーから離れていたトゥルーディ(ミシェル・ロドリゲス)が、クライマックスでジェイクがピンチの時に戦闘ヘリで助けにくるのは、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』におけるデス・スターでの攻防戦で、ミレニアム・ファルコンで駆けつけたハン・ソロを思わせます。『スター・ウォーズ』を意識したというより、研究して『俺ならこうやるね』というキャメロンの想いみたいなものを感じました」。
1964年生まれ、長野県出身。CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者。『ジュブナイル』(00)で長編監督デビュー、『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)で日本アカデミー賞ほか各映画賞を受賞。代表作に『永遠の0』(13)、『STAND BY ME ドラえもん』(14)、『海賊とよばれた男』(16)、『アルキメデスの大戦』(19)などがある。最新監督作は『ゴーストブック おばけずかん』(22)。