アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第13回 最高の店選び その2

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第13回 最高の店選び その2

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第13回は新メンバーの獲得に成功した都筑が決起集会のお店を予約したのだが…。

ピンキー☆キャッチ 第13回

第13回「最高の店選び その2」
第13回「最高の店選び その2」イラスト/Koto Nakajo

「ええと、この辺のはずなんですよね」

携帯の地図を見ながら都築はビルを見上げた。目の前には古ぼけた小さな雑居ビルがあり、想像している店の佇まいとは似ても似つかない。するとメニューらしきものを指でクルクルと回しながら、一人の若者が声をかけてきた。

「居酒屋お探しでしたらすぐにご案内できますよ?」
「ああいや、結構ですよ。店は決まってるので」

都築は鼻先でせせら笑った。こちらは夢のような極上の隠れ家的居酒屋を知っているのだ。客引きをするような粗悪な店に用は無い。

「なんて店ですか?このビルで居酒屋はうちだけですけど」
「夢酔処・星空屋というお店ですが」
「ああほらやっぱりウチですよ、ご案内しますね」

都築は信じられない思いで先導する若者に続いた。敢えての隠れ家的な演出の為のこの雑居ビルなのか?やけに揺れる古びたエレベーターが5階に着くと、そこには嘘のような光景が広がっていた。

あの店だ。サイトで見たあの店で間違いなかった。しかし違うのだ。汚い。全体的にあまりにもチープな作りで汚いのだ。土曜日のゴールデンタイムにも関わらず、他に一組の客が座っているだけだった。そして確かに水槽はある。ただ、素人仕事で白く塗られたベニヤ板で囲まれたちゃちな家庭用の水槽だった。立派な埋め込み式に見えたのは撮影の角度や色合いの調整によるものだろう。中では息絶えた小魚が白く濁り、水流でゆらゆら揺れていた。案内された座敷は小上がりに座布団がランダムに置かれており、まるで濡れせんべいのようだった。

「こちらどうぞ」

雑に案内された席は、入口すぐの狭い四人席だった。レジ台が

「あ、いや、全席個室の店だと書いてあったはずなんだが」

混乱する頭で言葉を絞り出すと、客引きは「ああ」と短く答え、天井からボロボロのすだれを垂らし、「はい」と言った。何が「はい」なのか解らなかったが、この擦り切れたすだれが個室の仕切りだというのか。天井から埃が落ちてきて、所在なく座っている咲恵の頭にふわりと乗った。

「こちらお通しすね」

キャップを後ろかぶりした先程とは別の若者が、しなびたきゅうりの味噌漬けをガンと置いた。

「一人三品以上のフードとドリンクのご注文して頂きます。お席は2時間制です。週末料金でお通しとは別にチャージ料金で一人700円頂きます、それではご注文の際はそちらの呼び鈴鳴らして下っさい」

まるで念仏でも唱えているかのように、不機嫌そうに早口で捲し立てる。空気を察した三島がみんなのドリンクを聞き、注文してくれた。店員は気だるげにドリンクを運び、首をコキコキ鳴らしながら去って行った。鏑木がジョッキを掴むと項垂れる都築に変わって仕切り始めた。

「それじゃあこれからお願いいたします!じゃあ都築さん、、、都築さん、乾杯お願いしますよ」
「あ、ええ、、、、それじゃあ何かと色々と、、乾杯、、」
「、、、乾杯~」
「乾杯です」
「乾杯、お願いします」

都築もとりあえずジョッキを口に運んだ。生ビールを頼んだはずだった。しかしそれはあまりにも薄く、ぬるかった。発泡酒に常温の水道水を混ぜたかのような味で、こうなるとただの苦水だ。三島と鏑木も「おや?」という顔でとまどっている。ウーロンハイを選んだ咲恵も口を歪ませ、「薬みたいな味する」と杯を置いた。

テーブルの上を羽蟻が這っていたが、都築はそれを振り払う気力も無かった。

「あの、、すみません、こんなはずじゃなくて、、、、」

なぜこんな目に遭わなくてはいけないのだろう。自分は自分の仕事を全うする為に、その中での円滑な人間関係を思い遣って場を準備しただけなのに。大袈裟でもなんでもなく、都築は神を呪った。酒に関係する神がいたような気がする。確かバッカスだったか。よく分からないがその神を呪った。
鏑木が携帯を取り出すと、都築に画面を見せてきた。

「こういう店少なくないんですよ、ほらここのレビューも」

それは来客者の意見が書かれたページだった。
「最低の店です」「乾いたキュウリ出された」「すだれの仕切りは個室じゃねえよ」「水槽の魚が死んでた。カルパッチョ食う気失せたわ」と散々な書かれようだった。更には「おいおい、こんなクソ店で一人5000円いったんだけど」ともある。先ほどの謎のチャージ料金が上乗せされたのであろう。苦情はスクロールをしてもしても途切れず続いていた。

四人はほとんど手を付けずに店を出た。会計は19600円だった。注文した品が出てくる前に退店することで抗議の意を示した。もっともこうしたケースは日常茶飯事で、相手方は何も感じていないのかもしれないが。
鏑木が支払いを申し出てくれたが、都築は力ずくでそれを止めた。もちろん交際費として落ちる費用ではあったが、この支払いは自費で払った。この出費は悔しさを、そして痛みを忘れぬための、都築なりの戒めのタトゥーであった。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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