何度も驚嘆し、鳥肌が立つ『線は、僕を描く』、観るというより“浴びる”『RRR』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、「ちはやふる」シリーズのスタッフ陣が再集結し“水墨画”に魅せられた青年の変化を描くドラマ、「バーフバリ」のS・S・ラージャマウリがインド映画史上最高の製作費を投じて描いた2人の男の友情と戦いの物語、A24が製作を担当し、コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミスらの共演で描くドラマの、心を掴まれる3本。
水墨画を描く過程がこんなにも躍動的だとは…『線は、僕を描く』(公開中)
砥上裕將による同名小説を、「ちはやふる」シリーズの小泉徳宏が映画化。百人一首から、モチーフを持ち替えた小泉監督が、今回もまた万人には馴染みが薄いかもしれない“水墨画”の世界に魅了させ、どっぷり引き込んでくれる。
バイトの絵画展設営現場で、ある水墨画に目を奪われた大学生の霜介(横浜流星)は、水墨画の大家、篠田湖山(三浦友和)に声を掛けられ、水墨画を習うことになる。尻込みしつつ、湖山の家で習い始めた霜介は、その面白さにのめり込んでいく。そして、ある事故で家族を喪って以来、深い悲しみから殻に閉じこもりがちだった霜介は、再び周りの世界へと目を開くようになっていく――。
水墨画が完成するまでの過程が、こんなにも躍動的だとは!真っ白い紙の上に筆が置かれた瞬間から、まさに手品を見ているように何度も驚嘆し、鳥肌を立てずにいられない。湖山と孫娘、千瑛(清原果耶)、湖山の一番弟子(江口洋介)らと霜介が繰り広げる人間ドラマは心に染み、大学まわりの青春ドラマは笑いと輝きと「あるある」に満ち、霜介の過去が浮かび上がる過程はサスペンスフルに。繊細かつダイナミック。横浜流星はじめ役者陣の味わい深い演技が、本作の世界観と余韻を深めている。(映画ライター・折田千鶴子)
おそらく誰もがひれ伏しながら爆笑するに違いない…『RRR』(公開中)
あの「バーフバリ」のS・S・ラージャマウリ監督の最新作がついにやってきた。「バーフバリ」の大成功を追い風に、インド映画史上最高額の製作費が投じられたというから、過剰なパワーで観客を圧倒した「バーフバリ」を越えてやる!という強固な意思を感じずにはいられない。我々に与えられた選択肢は、怒涛の勢いと物量を前にして、ひれ伏すか笑うしかない。いや、おそらく誰もがひれ伏しながら爆笑するに違いない。
物語の背景には植民地時代のインドの独立運動があるのだが、歴史ものと呼ぶにはあまりにもタガが外れている。超人レベルで強くてカッコいい男が2人いて、運命的にアツい友情で結ばれ、全力でハシャぎ、全力で踊り、全力で困った人を救い、全力で大ゲンカもする。そしてビジュアルからして濃厚な男2人のわちゃわちゃが、いつのまにか国を揺るがせる未曾有の事態へとなだれ込むのだ。待ったなし、問答無用の3時間。観る、というより、浴びる、という言葉が似合う、インド映画ならではのメガ盛りフルコースを堪能してほしい。(映画ライター・村山章)
日本の我々の琴線に触れる部分も多い…『アフターヤン』(公開中)
ロボットも家族の一員となった近未来。そのロボットが故障し、修理もうまくいかなくなったら、それは家族との永遠の別れにもなる…。設定は明らかにSF的世界。いきなり家族のダンスバトルで始まるので、どんなムードが待っているかと思いきや、作品自体は静かに感動がしみわたるテイスト。主人公一家の長男にあたる存在がヤン(ジャスティン・H・ミン)という名のロボットなのだが、人間の姿そのものなので、ある意味、シンプルな家族ドラマとして進んでいく。
監督は韓国系アメリカ人のコゴナダで、前作『コロンバス』(17)でも建築を巡るドラマを静謐に届けた。本作でもそのタッチをキープ。一家の父親が茶葉を売る店を営んでおり、お茶の淹れ方や飲み方も語られ、多様な人種の家族はファッションがアジア風。音楽には坂本龍一が参加しており、日本の我々の琴線に触れる部分も多い。ヤンのメモリに保存されていた家族の動画がキーポイントになって、観終わった後、家族の日常、その大切さ、愛おしさで深い余韻に包まれる。(映画ライター・斉藤博昭)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼