『ほしのこえ』『君の名は。』…新海誠作品に共通して描かれる”時間”と”距離”のせつなさ
『言の葉の庭』『天気の子』では年の差が男女を隔てる
新海監督作品において、“壁”や“隔たり”は、時として年齢差として描かれた。例えば『言の葉の庭』(13)では高校生の男子、秋月孝雄(声:入野自由)と、高校教師の雪野百香里(声:花澤香菜)の危うい恋愛が描かれた。孝雄にとって大人の女性は神秘的な存在で、百香里も孝雄の気持ちを知りどこか背徳感を感じていた。はたして2人は年齢の差を超えることができるのか。激しい雨が雑音を遮るなかで、2人は思いをぶつけ合う。
一方『天気の子』(19)では、子どもと大人の“壁”が、物語を動かしていく。主人公の高校1年生男子、森嶋帆高(声:醍醐虎汰朗)は家出をした先で、18歳と偽る実は中学3年生の女子、天野陽菜(声:森七菜)と出会う。陽菜は小学生の弟の凪(声:吉柳咲良)との生活費を稼ぐためアルバイトをしていたが、年齢詐称がバレてクビに。そこで帆高の提案で、彼女が持つ力である「晴れ女」を商売にする。児童相談所から逃げ回る陽菜と凪。そして帆高は警察から追われる。大人になるというのは、どういうことなのか。大人の責任とは。大人の世界を傷つきながら旅をする、子どもたちの冒険譚としても読み解くこともできるだろう。
あらゆる隔たりが男女を阻んだ『君の名は。』
そうした時間や時空、距離、年齢などの壁や隔たりが、集大成的に描かれていたのが『君の名は。』だろう。主人公は東京の都心に住む男子高校生、立花瀧(声:神木隆之介)と、岐阜県の糸守町に住む女子高校生、宮水三葉(声:上白石萌音)。2人はある朝、なぜか体が入れ替わってしまう。いざ出会おうとした時、2人の目の前に立ちはだかったのは、3年という“時間のズレ”だった。ボーイミーツガールのドキドキした展開から一転、絶望に落とされた瀧は、3年前の三葉を救うため奔走する。こうしたどんでん返しの展開は、『言の葉の庭』で孝雄が、百香里が自分の高校の教師だったことを知った時や、『ほしのこえ』で昇が、美加子がロボットに乗って敵と戦っていたことを知った時など、新海監督作品ではおなじみ。『天気の子』でも、陽菜の「晴れ女」の仕事が成功したかと思いきや、彼女は突然過酷な代償を突きつけられる。
『君の名は。』の瀧、『天気の子』の帆高など、新海監督作品の主人公は、いつも走っているように思う。時間、距離、離れてしまったものに近付きたくて走る主人公たち。そのあきらめない姿に、観客は感動し、彼らを応援したくなる。その結末が狂った未来であったとしても。『ほしのこえ』から20年、『すずめの戸締まり』を観る前に、改めて新海ワールドに触れ、その魅力を体感してほしい。
文/榑林史章