朝ドラヒロインから狂気の母をも体現…女優・戸田恵梨香の歩みをいまこそ振り返る

コラム

朝ドラヒロインから狂気の母をも体現…女優・戸田恵梨香の歩みをいまこそ振り返る

女優としてのターニングポイントになった「SPEC」

戸田が2010年のドラマ「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」やその劇場作品である『劇場版 SPEC 天』(12)などで演じた若き捜査官、当麻紗綾もかなりぶっ飛んだキャラだった。なにしろ彼女はIQ201の頭脳と驚異的な記憶力を持つ天才でありながら、「超」がつくほどの変人。ボサボサの長髪でグレーのスーツを着崩し、左腕を三角巾で固定。エンジのキャリーバックを転がしながら犯罪の現場に向かうその姿はどう見ても普通じゃない。

しかも、目上目下に関係なく「~じゃないすか?」「~っすね」と答える口の悪さで、加瀬亮が演じた頑固で几帳面な捜査官、瀬文焚流と毎回激突!それでも、書道の筆で半紙に事件のキーワードを次々に書きなぐり、真実にたどり着いた際に「いただきました!」という決めゼリフを吐くその姿は気持ちがいいぐらいカッコよくて、多くのファンを魅了した。

戸田にとって、台本への向き合い方を考えるきっかけになった「SPEC」シリーズ
戸田にとって、台本への向き合い方を考えるきっかけになった「SPEC」シリーズ全本編DVD-BOX 発売中 価格:31,860円 発売元:TBS 販売元:TCエンタテインメント [c]TBS [c]2012「SPEC~天~」製作委員会 [c]2013「劇場版SPEC~結~漸ノ篇」製作委員会 [c]2013「劇場版SPEC~結~爻ノ篇」製作委員会

ところが、実はこのころの戸田は仕事に対して悩みを抱えていたようで、「悩んでいたし、切羽詰まっていましたね」と述懐。「自分の役の幅を広げることや自分のやり方を見つけることにとにかく必死で。成長するために役にしがみついている感じだったんですけど、加瀬亮さんと『SPEC』でお会いして、台本への向き合い方を考えるようになったんです」。

それが女優としてのターニングポイントに。「当麻紗綾役をきっかけにクセの強いキャラクターのオファーがすごく増えて。それまでは自分のお芝居の短所をなくし、役柄の幅を広げていかなければいけないと思っていたんですけど、『SPEC』をきっかけに、自分のお芝居の長所や自分が好きな作品の傾向がわかるようになって、気持ちが楽になったんです」と打ち明ける。

約10年にわたって一人の女性の成長を等身大で体現した「コード・ブルー」

その言葉どおり、「SPEC」以降は自分の個性や年齢に適した役を見極める力がどんどん研ぎ澄まされ、戸田が自然体で演じたヒロインたちが多くの女性たちから支持されるようになっていった。

2008~2018年まで長きにわたって関わった「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」で演じた医師の緋山美帆子も、そんな戸田のキャリアを語るうえで絶対に外せない重要なキャラクターだ。ドラマのファーストシーズンでは未熟で言葉にもトゲがある緋山を文字どおり体当たりに演じていて、表情も険しい。だが、セカンド、サードシーズンになるに従って、戸田自身の人間的な成長と歩を合わせるように、医療現場に臨む緋山の姿にも頼もしさがうかがえるようになった。

的確な判断ができるようになっただけでなく、仲間を思いやる気持ちも備え、仕事に生き甲斐を感じるようになった緋山をちゃんと体現していたからこそ、視聴者も引き込まれたのだ。2018年の劇場版では特に、障害を持つ恋人の緒方博嗣(丸山智己)との関係に悩みながらも、後輩の指導にあたる彼女を優しさも感じられる言葉で演じていたのが記憶に新しい。

「スカーレット」で朝ドラの主演に抜擢!

2015年の映画『駆込み女と駆出し男』で、幕府公認の縁切寺「東慶寺」に離縁を求めて駆け込んできた女性、じょごに扮した戸田も忘れることはできない。結婚時の境遇から夫に文句を言えない立場だったじょごは、最初こそおどおどしていたが、寺での暮らしを通してしだいに強さと自信を身に付けていく。そんな彼女の成長と変化を、戸田は眼差しに宿る光や表情、少しずつ伸びる背筋などで鮮やかに表現していたのが印象的だった。


さらに、2019~2020年にかけて放送されたNHKの連続テレビ小説「スカーレット」ではヒロインの川原喜美子を女性陶芸家として、妻として、さらには白血病の息子(伊藤健太郎)を抱えるシングルマザーとして体現。約11か月の撮影期間のなかで、15歳から40代後半までの喜美子の成長と変化を陶芸に真剣に向かう姿勢や身のこなし、目力や顔つきの変化で完璧に表現していた。

戸田自身は最近新たな境地に入ったようで、「ここ最近のことなんですけど、自分の好きな役をやるのが一番いいなと思うようになったんです」という。「ミスキャストという言葉があるように、役者にも合う役と合わない役があるから、そこに無理に挑む必要性はないと思うんです。その役が得意な人がいるならその人に任せるべきだし、人にはそれぞれの役目がある。それが最近なんとなく理解できるようになって、無理しなくてもいいんだなと思えるようになったんです」。


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