いくつ知ってる?「アーサー王伝説」“円卓の騎士”関連作…A24『グリーン・ナイト』を原典から読み解く
緑の騎士との対決に挑み、誘惑や死の恐怖にさらされるガウェイン
そんなガウェインの高潔さと人間的な弱さの両面が描かれるのが「サー・ガウェインと緑の騎士」。物語は、ある年のクリスマスから始まる。新年を祝してキャメロット城では、馬上槍試合や馬上競技会、聖歌、宴会が15日間にかけて行われていたが、そこへ突如として衣服や髪、髭、皮膚、跨る馬にいたるすべてが緑色をした大男“緑の騎士”が現れる。騎士はその場にいる者たちに向かって、手にする巨大な斧で自身の首を斬ってみろと“首切りゲーム”をもちかけ、この挑発を受けたガウェインが見事な一振りでその首を切断。しかし、騎士は絶命しておらず、転げ落ちた自身の首を拾い上げると、「1年後、緑の礼拝堂で待っている。今度はお前が私の一撃を受けるのだ」と言い残し、笑いながら馬で去ってしまう。季節は過ぎ行き、約束を果たすため、ガウェインは緑の礼拝堂を目指して旅立つ。
旅の途中でガウェインは、ある城に数日の間宿泊することになる。城主からの歓迎を受け、礼拝堂へ向けて出発する日まで、城内でガウェインが手に入れたものと、城主が狩りで仕留めた獲物を交換し合うという約束を交わす。一方で、ガウェインは城主の奥方からの度重なる誘惑を受けることになるのだが、礼節をもってこれを固辞し続け、彼女から口づけを受けた際には、城主に口づけを返すことで約束を守っている。しかし、奥方から贈られた身に着けることで“決して死ぬことがない”腰帯は返さずに城をあとにする。
かくして、緑の礼拝堂にたどり着いたガウェインは、緑の騎士から一撃を受けるために自身の首を差し出す。しかし、騎士は大斧を振り上げると、二度寸止めしたあと、三度目で首をかすめるように振り下ろし、ガウェインはわずかな鮮血を流すのみで生還する。実は緑の騎士の正体は城に住む魔法使い、モルガンによって姿を変えられていた城主であり、すべてはガウェインの度量を試すためのワナだった。城主との約束を守って交換に応じ、奥方の誘惑にも耐え抜いたので二度は寸止めしたのだが、不死の力を持った腰帯を身に着けたままだったので、首にかすり傷を負わせたのだ。腰帯を城主に返さなかったことを恥ずかしく思い、「臆病で貪欲」と自責の念に駆られるガウェインに対し、それも命を惜しんだことが理由で大した罪ではないと諭す緑の騎士。腰帯を返却し、代わりに騎士が身に着けていた腰帯を、己への戒めのために受け取ることにしたガウェインがキャメロット城へ戻ったところで物語は終幕する。
前述の通り、フランス発の物語やマロリー版の影響もあり、女性に対してだらしないキャラクターが浸透しているガウェインなのだが、この作品では頑なに奥方からの誘いを断り続けている。また、件の腰帯のことで死への恐怖心を露わにしながらも、緑の騎士がその武勇や功績を褒め称えるように、彼が立派な騎士道精神を持った人物であることは明らかであり、改めてその偉大さが伝わる重要なエピソードとして捉えることができる。