いくつ知ってる?「アーサー王伝説」“円卓の騎士”関連作…A24『グリーン・ナイト』を原典から読み解く
モラトリアムから抜け出そうともがく未熟なガウェインにシンパシー
この「サー・ガウェインと緑の騎士」は過去にも『まぼろしの緑の騎士』(73)や『勇者の剣』(84)で映像化されており、後者ではショーン・コネリーが緑の騎士を演じている(コネリーは『トゥルーナイト』にもアーサー王役で出演)。また、『エクスカリバー』では若かりしころのリーアム・ニーソンが、『キング・アーサー』(04)ではジョエル・エドガートンがガウェイン役に扮していた(エドガートンは本作にも城主役で出演しているのだが、ロウリー監督によると意識しての配役だそう)。
そして、新たに映像化される『グリーン・ナイト』では、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)や『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(16)のデヴ・パテルが主演を務めている。ストーリーや主人公ガウェインのキャラクターにはアレンジがなされており、原作では成熟した大人の騎士だったのに対し、本作ではまだ見習いの身で、娼館に入り浸るなどうだつが上がらない日々を過ごしている。
緑の騎士との首切りゲームを受け、人々から英雄視されるようになったガウェインだが、迫る旅立ちの日を憂鬱に思い、まるで気が進まない。やっとのことで旅立つも早々に盗賊に襲われ、縛られて所持品も奪われるなど、とにかくヘタレで情けない面が目立つ。また、原作にはないエピソードとして、ある廃墟で少女の霊に出会った彼が、近くの湖から彼女の斬り落とされた首を見つけてほしいと頼まれるのだが、その際になにか見返りを求めようともしている。
「アーサー王伝説」が好きな人にしてみれば、”こんなガウェインは嫌だ”を地で行く本作のガウェイン。こうしたダラダラ感は、進むべき道を定められず鬱屈したモラトリアム期間にいる現代人にも通じるところがあり、ロウリーが「いまっぽい」と語るように、観客がよりシンパシーが持てるキャラクターになったとも言えるだろう。一方で、女性関係に奔放で俗っぽさもあるところは、脈々と語り継がれるなかで様々な変遷があったガウェインの弱い部分を映しだしている?と想像できるところもおもしろい。
ガウェインの苦難の旅だけでなく、アイルランドで撮影された広大な自然が広がるロケーション、本物の城が使用されたキャメロット城の重厚感に、巨人の群れや旅のお供となるしゃべるキツネなど、ファンタジー作品らしい世界観でも楽しませてくれる『グリーン・ナイト』。もちろん、そのままでも十分に楽しめるが、原作やほかの「アーサー王伝説」の物語群にも触れてみると、作品への理解がより深まるはずだ。
文/平尾嘉浩