是枝裕和監督「舞妓さんちのまかないさん」は“ごはん”と“美術”が眼福!飯島奈美&種田陽平の仕事に迫る
京都の裏路地まで完全再現!精巧な“種田美術”が作品世界を引き立てる
もう一つ、本作の世界観を魅力的にしているのが、『空気人形』(09)や『三度目の殺人』(17)でも是枝監督とタッグを組んだ、世界的美術監督の種田陽平が手掛けたセットの数々だ。
それには是枝監督も「種田さんによる美術は想定をはるかに超えるものでした」と脱帽するほどで、屋形の建物はもちろん、劇中に登場する裏路地まですべてセットで再現。特に第5話で描かれる、橋本愛演じる百子が桂川に浮かぶ船の上で「黒髪」を舞い踊るシーンでは、是枝監督のリクエストを実現する“種田美術”の真髄が発揮されており、幻想的で神秘的な雰囲気に思わず釘付けになること間違いなしだ。
「大掛かりなセットと言われますが、僕としては小さな空間、小さなセットを連続させたものだと考えています」と語る種田。「以前(クエンティン・)タランティーノ監督から『役者を包み込むセットにしてほしい』と言われたことがあります。日本家屋である今回も、より主人公たちの動きや演技に寄り添ったセットであることが大切だと思いました」と本作の美術のポイントを明かす。
細部にまでこだわり抜かれたセットを、映像でより魅力的なものにした是枝監督やスタッフ・キャスト陣への感謝を述べる種田は「僕の仕事のなかでも大変に満足がいく仕事の一つになりました」と振り返る。「各チームが精度の高いアサンブルを実現させ、豊かなハーモニーを奏でることができたと思います。そのハーモニーを大勢の観る人に楽しんでもらって、シーズン2の実現が叶ったらうれしいですね」と期待に胸を弾ませる。
ドラマシリーズという新たな挑戦に踏み出した是枝監督と、これまで是枝作品を支えてきたスタッフたちとの信頼関係によって生み出された渾身のディテール。そしてそこで生き生きと演じる森や出口夏希、蒔田彩珠、橋本、松岡茉優、常盤貴子、松坂慶子ら女優たちの見事なアンサンブル。京都の街を舞台に描かれる、温かく優しい癒しのひと時を、是非とも隅々まで味わい尽くしてほしい。
文/久保田 和馬