松本まりか、行きずりの一夜を求め街へ…イメージを脱ぎ去る危険な色気
『そこのみにて光輝く』(14)や『オーバー・フェンス』(16)など近年多くの著作が映画化されている作家、佐藤泰志の同名短編小説を、ピンク映画から青春映画まで幅広いジャンルをこなす城定秀夫監督が映画化した『夜、鳥たちが啼く』(公開中)。本作のヒロインであるシングルマザーの裕子役を、生々しくも鮮烈に演じ抜いたのは、気鋭監督たちの作品への出演が相次ぐ松本まりかだ。
若くして小説家デビューするも、鳴かず飛ばずの挙句に恋人にも去られた慎一(山田裕貴)。そんな彼の元に、友人の元妻である裕子(松本)が幼い息子のアキラを連れて引っ越してくる。かつて恋人と暮らしていた一軒家を2人に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きする慎一は、自らの無様な姿を物語へ綴っていく。一方で裕子は、親としての立場と孤独との間で苦しみながら、行きずりの出会いを求め夜の街へ出向くように。お互い深入りしないよう距離を保つ慎一と裕子は、アキラと3人で表面的には穏やかな日々を重ねていく。
2000年のNHKドラマ「六番目の小夜子」でデビューを果たし、様々な映画やドラマで長年キャリアを積んだ後、2018年放送のテレビ朝日系ドラマ「ホリデイラブ」で一躍大ブレイクを果たした松本。2022年だけで7本の出演映画が公開されるなど飛ぶ鳥を落とす勢いの彼女に、製作陣が本作の出演を打診した理由は、松本ならばいびつな感情を抱えながら必死に生きる裕子を説得力をもって演じられるはずだという強い確信があったからだという。
離婚して息子と2人で行き場を失い、慎一のもとへと身を寄せる友人の元妻。息子に愛情を注ぎながら、夫に裏切られた過去の傷を抱え、そのやり場のない思いを行きずりの男たちとの出会いで紛らわしていく。「無駄がひとつもなくて、解釈の仕方も表面上の印象よりも、もっともっと深いところに答えがあるすごい脚本なんです。この先自分がこの役に到達できるのか、果てしない戦いだなと感じています」と撮影前から強いやりがいをもって役に臨んでいた松本。
これが実に5度目の共演となる山田裕貴と抜群の相性を見せ、孤独に苛まれてアンバランスで危うくなった人間の生々しさを体当たりで演じていく。撮影後には「現場で時間を重ねていくなかで、裕子という役にとっても、私にとっても気付きがたくさんありました。すごく大切な経験をさせてもらえた作品です」と手応えをにじませた松本。“あざとい”キャラで注目を集めた彼女が見せる、これまでのイメージを脱ぎ去った熱演を、是非ともスクリーンでその目に焼き付けてほしい。
文/久保田 和馬