映画ファンが”2022年の一本”として挙げる『ある男』の特別な余韻「この作品にのめり込み、抜けだせなくなった」
深い余韻に包まれる、ヒューマンミステリーとしての完成度
観客のなかには、原作、映画と繰り返し鑑賞する人や、どっぷり深い余韻をに浸る人も。
「しばらく日常生活に支障をきたす程にこの作品にのめり込み抜け出せなくなった。 初日の後またその状態に… 複雑な構成でボリュームもある原作が見事に映像化され、映画を観ると原作を読み返したくなり、また映画を…と無限ループに陥る」
「最初と最後のシーンの見方が変わる。最後の余韻がハンパない。自分のアイデンティティが実は偏った考えのもとにあるのかもしれないと考えさせられた」
「テーマもメッセージもきちんと描きながら、観客に想像する余地、考える余白を与えてくれて、なにを受け取るかは観客に委ねてくれる。窪田くんとぶっきー(妻夫木)がすぐに感想が出てこないかもと話していたのも納得。この作品好きだ」
映画が完成した際、妻夫木は「人生に正解はない。かといって間違いもない。どんな答えであってもいいと思う。だから恐れずに向き合ってほしい。観てくださった方にとって、この作品が人生の道標のような存在になるのであれば僕は幸せです」と語っているが、その言葉通り、本作はミステリーにとどまらず、誰もがそれぞれの人生を考えさせられるような重厚な人間ドラマとして仕上がっている。
「映画を通じて、無意識の内に行っている“こういう人”と一方的に決めつけること、他人をカテゴライズすることの罪深さを突きつけられた気がします。 なにが真実なのか、真実を暴くことが正しいのか考えさせられました」「できれば過去をリセットして新しい人生をはじめたい。自分ではない他の誰かになりたい、と考えたことがある人なら胸に刺さる映画だと思う。出自は選べない。自分ではどうにもならないことで差別されるつらさ、苦しさがありありと伝わってきた。良作」
と忘れられない1作として、本作から多くのことを心に刻んだ人もいる。
『愚行録』(17)や『蜜蜂と遠雷』(19)などの石川慶が監督を、『マイ・バック・ページ』(11)などの向井康介が脚本を、『万引き家族』(18)などの近藤龍人が撮影を担った。一級スタッフが手腕を発揮した、抑制の効いた一作『ある男』。ぜひ映画館で登場人物たちの心の旅を目撃し、特別な余韻を味わってほしい。
文/成田おり枝