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ソフィー・マルソーが明かすフランソワ・オゾンとの初めての仕事「絶対に落ちない綱渡りをしているようなもの」

インタビュー

ソフィー・マルソーが明かすフランソワ・オゾンとの初めての仕事「絶対に落ちない綱渡りをしているようなもの」

「本作で、女優でありたいという想いを新たにできました」

――本作の中心となるのは「人生を終わらせたがる」父親ですね。

身体の不自由を訴え、安楽死を望むようになるアンドレ
身体の不自由を訴え、安楽死を望むようになるアンドレ[c]2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

「本作に取りかかってみて、故郷の山で死のうとする老いたアメリカ先住民を思い描きました。すべては儀式であり、誰かがその人に付き添うことになりますから。安楽死は個人の選択に任せるべきだと私は思いますし、真剣に死にたいという人の希望を受け入れる必要があるとも思っています」

――なぜ、そう思うのでしょうか?

「それは人生と私たちの契約に含まれているからです。だから、人が亡くなる直前に見捨ててはならないと思います。この物語は、それがまだ不法である国において尊厳を持ってどうやって死ぬかということを私に教えてくれました。緊張感が加わっていますが、ミステリーめいた要素は大好きです」

――深刻なテーマにもかかわらず、本作には確かにたくさんのユーモアが散りばめられています。

葛藤を抱えるエマニュエルと妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)
葛藤を抱えるエマニュエルと妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)[c]2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

「こうした究極の危機は、まるでジェットコースターに乗っているようなものです。だからコミカルな状況に陥って、センシティブな、あるいは抑えられない笑いの発作をもたらします。人生においてなにかを喪失することは、誰もががいつかは直面しなければならないものだけれど、そのことについて笑うこともできるはず。父はそれができるようにしてくれるんです。彼はとても厚かましくて、自分勝手で不機嫌になるけれど、堂々としています。エマニュエルは父親の死に振り回されるけれど、その死は父親が自分で選んだことであり、ただの死と同じではありません。そのことが本作を複雑にするから、ただの一度もお涙ちょうだい的にはならないんです」

――父の決断についてどう思いましたか?

「それはエマニュエルを大ハンマーで打ちつけると同時に、物語に一種の軽さをもたらすことになります。あまりに差し迫った話だから、エマニュエルは落ち込む時間もなかったのではないかと。すぐに行動へと移すことで、この尋常ではない状況をなんとかしようと、非情になるしかなかったんです。でも、父は死にかけてから持ち直したところだったし、彼女は父がこのまま回復してくれたらと希望を抱いていたので、彼が人生を本当に終わらせると決断したことは、第2の死のようにも感じられます」

――父親がエマニュエルに手配を頼むなんて、とても非情な選択ですね。

リハビリが功を奏し、日に日に回復していくアンドレ…安楽死の決意は揺るがないのか?
リハビリが功を奏し、日に日に回復していくアンドレ…安楽死の決意は揺るがないのか?[c]2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

「たぶん、子ども、特に娘というのはそのためにいるのではないかと思います。すなわち、父がエマニュエルに、人生を終わらせるために手を貸してくれと頼むのは思いがけないことじゃないのではないかと。特にこの世代の人はそうしたことが少なくないと思います。とても温かくて献身的なエマニュエルは、自分勝手に生きてきた父親をいつか失うという不安のなかで生きてきたことも確かですし」

――父親役のアンドレ・デュソリエとの仕事はいかがでしたか?

「アンドレはとても秀でた俳優で、私を笑わせ、泣かせてくれました。彼ぐらい長いキャリアを積んだあとでも、これほど情熱的なプロフェッショナルでいられるなんてすごいことだと思います。アンドレはその演技や、相手役との相互作用において、いつも作品の中心にいてくれました。彼はとてもひどいけど、なぜか好きにならずにはいられないキャラクターに対して、見事に命を吹き込んでいました。そういう経験は、シャーロット・ランプリングと初めて仕事をした作品でもできましたが、彼女もすばらしい輝きを放つ人で、私は完璧に魅了されました」

――フランソワ・オゾンとの仕事はいかがでしたか?

『すべてうまくいきますように』は2月3日(金)より公開
『すべてうまくいきますように』は2月3日(金)より公開[c]2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

「どの監督も独自の仕事方法を持っていますが、フランソワは効率的かつ明確で、厳格です。現場を切り盛りして的確な指示を出せるし、遠回しに話をすることがありません。こちらがシーンの意味を理解しさえすれば、彼は心理的な細部を長々と話すことはないんです。


フランソワは撮影以外の時も常にカメラの後ろにいて、いつも俳優を観察しています。すべてを使おうとしているわけではなく、彼が必要なものを選んでいるという感じ。その俳優に似合う色を見つけようとしてくれるし、俳優ならそんなふうに見られることを好むはず」

――常に気が抜けない現場でもあったようですね。

「リハーサルと本番の境界線が微妙なんです。私たちはそれぞれが立ち位置につき、リハーサルを始めますが、気づくとフランソワはそのシーンに夢中になり、カメラを回し始めているんです。だから彼の現場では、スタッフから俳優まで、みんながいつでも動けるようにしておかないといけない。そういう意味で、フランソワの撮影現場は、絶対に落ちない綱渡りをしているようなものです。現場ではしっかりと意識を向けて集中することを要求されるけど、そうすることが多くの時間とエネルギーの節約にもなります。私は久しぶりに撮影現場に戻ってきましたが、この力強い物語と共演者たち、スタッフや監督に恵まれてとても幸せでしたし、女優でありたいという想いを新たにできました」

文/山崎伸子

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