“ニュースの賞味期限”は短くなっているのか?地上波・ネット・映画を駆使する『戦場記者』須賀川拓のジャーナリズム|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
“ニュースの賞味期限”は短くなっているのか?地上波・ネット・映画を駆使する『戦場記者』須賀川拓のジャーナリズム

インタビュー

“ニュースの賞味期限”は短くなっているのか?地上波・ネット・映画を駆使する『戦場記者』須賀川拓のジャーナリズム

TBSテレビ特派員・須賀川拓が“戦場のいま”を伝える様子を映しだしたドキュメンタリー映画『戦場記者』(公開中)が、話題を呼んでいる。本作は、2022年3月に開催されたTBSドキュメンタリー映画祭で上映された『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』に更なる取材を重ねて映画化したものだ。ガザ地区を始め、ウクライナやアフガニスタン他へ飛び回り、その情熱的なレポートから2022年に「ボーン・上田記念国際記者賞」(国際報道で優れた業績を上げた時ジャーナリストに贈られる賞)を受賞した須賀川拓監督に、「戦場記者」として生きる想いや、ドキュメンタリーを映画にする意味を語ってもらった。

2022年に国際報道で優れた業績を上げたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞
2022年に国際報道で優れた業績を上げたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞撮影/編集部

「映画を意識することで一番変わったのは、インタビューの時に“必ず質問者である自分も撮らせていること”」

――須賀川さんご自身がYouTubeで配信していた番組を「ドキュメンタリー映画として上映しよう」というお話を聞いた時、どう思われましたか。

「実は、僕が行く取材現場は、すべてシネマカメラで撮影しているんです。ドキュメンタリー映画は、今作の基となった『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』の前にもう1作、レバノンのドラッグ王を追いかけた『大麻と金と宗教 ~レバノンの“ドラッグ王”を追う』という作品を作っていて。そのころから“動きのある現場、激しい現場の取材はいつか映画に出来るのではないか?出来るだろう!”と思っていたんです。だからこの時から取材方法を切り替えて、カメラマンにも映画で使うことを意識した撮影と機材で映像を撮ってもらっています」

――ウクライナではドローンでも撮影されていますよね。

「大は小を兼ねる…ではありませんが、映画用に撮ったものを短くすれば地上波でも使えます。でも通常のテレビ機材で撮影したものを後から『映画にしよう』と思っても、色合いの違いや素材が足りないこともあって、映画に出来ないんです。だから、現場に行く時は映画化を視野に入れて、全部撮っています」

――映画を意識しながら撮影をしていたと聞いて驚きですが、では映画にするからこそ意識していた取材方法はありますか。

「手法として一番ガラッと変わったのは、インタビューの時に“必ず質問者である自分も撮らせていること”です。テレビのインタビューは、基本的に質問者が出ることはあまりなかったと思うんです。例えば受け答え、相手のYes、No、沈黙に対して「『~と聞いたが答えてくれなかった」と言語化されていました。それっておもしろくないですよね。それに“ホント?都合よく原稿を書いてない?”って思われるかもしれない、それがすごく嫌だったんです。だから質問を活かすためにも、カメラマンに質問者も撮らせるようにしました。いちいち原稿化する必要がないので、この手法は地上波でもすごく使えます。それに質問と沈黙がつながっただけで強いシーンにもなるので、それに気づいてからは必ずその手法を使っています。


ただ、カメラマンには『今回インタビューありますか?』と聞かれて『あるよ』と言うと、皆苦笑いしながら『わかりました』と言われます(笑)。“必ず質問者である自分も撮らせる”という手法で僕がインタビューするということは、結果的に全部で4カメぐらい必要になるので、カメラマンが大変なんです(笑)。でも、『地上波で使えなくても、YouTubeで使える。もしかしたら映画になるかもしれない』と考えながら仕事をすることで、インタビュー手法は以前より随分と変わりました」

地上波テレビの“尺”に収まらない紛争地の真実や、現地の声を伝えていく
地上波テレビの“尺”に収まらない紛争地の真実や、現地の声を伝えていく[c]TBSテレビ

――新聞記者の場合、インタビューする人間はもちろん、受け答えしている相手の表情が見えない分、文章で補う必要がある。でも映像では沈黙時の表情さえも観られる。それに上層部へのインタビューはTBSテレビ特派員である須賀川さんだからこそ出来る映像インタビューだと思います。インタビュー時に使うテクニックがあれば教えて下さい。

「インタビューをする時、僕は質問を用意して行きません。原稿を読みながら質問をしてししまうと流れも分断されるし、次の質問が気になって相手の話を聞いていない場合もあります。本当であれば相手の言葉にひずみがあってそこを突けるはずなのに、次の質問が用意されているとそっちに行ってしまう。そんな経験が若い頃、何回かあり“質問を用意しては駄目だ”と思ったんです。絶対に質問しないといけないものは忘れてはいけないのでメモに書きとめますが、基本時に質問は用意して行きません」

――だからこそ、アフガニスタンでのタリバン最高幹部・ムッタキ外相への直撃インタビューはすごいと思いました。ピリピリしたムードさえ感じたというか。

「僕もピリピリしていると感じていました(笑)、周りを取り囲まれていましたし。でもカメラマンに聞いたら、周りにいたタリバンの人たちは皆、スマホでインタビューしている模様を撮影していたそうですよ(笑)。もちろん、タリバンには『外国人(異教徒)を見たら殺せ!』という考えを持つ、極めて極端な人たちも居ます。でも政権幹部の人たちのなかに極端な考えを持つ人はそれほど多くない。そもそもヤバい人たちはインタビューに答えてくれないですから」

偶然機内に居合わせた、ムッタキ外相代行に突撃。アフガニスタン第二の都市・カンダハルでインタビュー
偶然機内に居合わせた、ムッタキ外相代行に突撃。アフガニスタン第二の都市・カンダハルでインタビュー[c]TBSテレビ

――ガザ紛争でのイスラエル軍の広報とハマスのトップ、無差別攻撃の責任者である双方にインタビューされています。私たちは“どちらが正解なのか?”と思いがちですが、双方の意見を聞くというのは貴重な体験でした。

「いまだから言えることですが、あの取材はぶっちゃけ、ちょっとずるい方法でインタビューをしています。ハマスのトップには『イスラエル軍から話は聞いています。インタビューに答えてくれないと、イスラエル軍の主張のみ流すことになります』と伝えているんです。もともと彼らは取材慣れしている部分もあると思いますが、ハマスのトップは“自分たちの想いを伝えて欲しい”と常日頃考えているので、直ぐにインタビューに応じてくれました。いっぽうイスラエル側は大変でした。『ハマス側はイスラエル側の戦争犯罪を追求しています。私はこの後、人権団体にも話を聞く準備があります。何日の何時までに回答を頂きたい。もし返答がなかった場合は「返答がなかった」と流します』とまるで脅しの様に伝えました。そうしたらインタビューに応じてくれたというわけです」

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