「『ラ・ラ・ランド』と『バビロン』は“いとこ”のような関係」デイミアン・チャゼル監督が語る、ハリウッドの二重性
「心から感動したのは、映画の終盤でのブラッド・ピットの表情」
『バビロン』では1920年代の映画の撮影現場が、壮大なスケールで再現される。現在ではCGで表現できてしまうシークエンスも、当時はもちろんすべて実写。そうした違いをチャゼルはどう感じたのか。「サイレント映画の時代には、例えば何千人もの群衆が必要な際に、無料の食事を出すからとホームレスの人たちを集め、戦士役として戦わせたりしました。現在は絶対にできないことですが、『考えを巡らせれば、なんとかなる』という発想力に刺激を受けます。僕自身も、基本的にはCGよりも実写、生身の人間の動きを好むタイプ。天気や、空中のホコリ、群衆などはそのまま撮りたいんです。『バビロン』のパーティに出てくる象は完全にCGですが、可能な限り、僕の好みもあって描かれた時代の撮影スタイルに近づけたつもりです。その結果、時代を再現できたのではないでしょうか」。
『バビロン』では俳優たちも、ハリウッド黄金期のスターの雰囲気を追求している。監督として彼らにカメラを向けながら、チャゼルはある俳優の一瞬の演技に心から魅了されたことを告白する。「撮影中、キャストたちの演技を見ながら、『目の前のことは現実なのか?』と感じたり、笑いを抑えきれなくなったり、そんな瞬間が何度もありました。ただ心から深く感動したのは、映画の終盤でのブラッド・ピットの表情でした。(彼が演じる)ジャックが人生を振り返り、センチメンタルになるシーンで、カメラがその顔に近づくのですが、ブラッドがあまりに脆く、優しく、繊細な演技を見せるので、その場でカメラの存在を消したくなったほどです。彼の大ファンである僕でさえ、見たことのない表情をしてくれました。本作で最も好きなシーンになりましたよ」。
「ジャスティン・ハーウィッツ史上、最高のスコアが完成したと断言できる」
そして最後に、チャゼルの“盟友”についても聞いておきたい。大学時代からの親友で、チャゼルのすべての監督作で音楽を担当するジャスティン・ハーウィッツだ。『ラ・ラ・ランド』では第89回アカデミー賞の作曲賞と歌曲賞を受賞。この『バビロン』でも第80回ゴールデン・グローブ賞の作曲賞に輝き、第95回アカデミー賞にもノミネートされた。ジャズ・エイジといわれる1920年代のムードを意識しつつ、現代的アレンジをほどこした今回のハーウィッツのスコアは、チャゼルの映画にいかに音楽が重要かを再認識させる。2人はどのようなコラボで作品を完成させるのか。
「脚本が完成したら、すぐにジャスティンに渡すというのが、いつもの流れです。そうすると彼は創作したスコアを僕に送り返してきます。その音楽を聴きながら、絵コンテを描き、撮影の準備を進めるわけです。つまり多くの映画と違って、僕の作品ではジャスティンの音楽が先行しています。映像とスコアの共生関係と言っていいでしょう。今回の『バビロン』は客観的な判断でも、ジャスティン史上、最高のスコアが完成したと断言できます。彼自身の基準をも上回ったのです。そのレベルの音楽を自由に使うことができた僕は、本当にラッキーな監督ですね」。
『バビロン』を観る我々は、音楽にも身を任せながら1920年代のハリウッドを追体験することになる。デイミアン・チャゼルが仕掛ける映画のマジックが、またしても多くの人を陶酔させることになりそうだ。
取材・文/斉藤 博昭