1,500名超の人命を救助した元消防士が『ノートルダム 炎の大聖堂』を解説…「死者ゼロ」の奇跡を遂げた理由とは?
「自分が51%よいと思ったら、もうその時点で動く」
クライマックスで、北塔(鐘楼)を救うべく、30人もの志願した隊員たちが「鐘楼特別隊」という決死隊として突入するシーンは、本作のハイライトでもある。カミヤは、消防隊員たちの指揮系統や危機管理能力の高さを心から称える。「決死隊のメンバーを選出するにあたり、大佐が隊員たちに『子どもがいるか?』『既婚者か?』などを尋ね、万が一のために家族への配慮をきちんと行っています。そして人選後『生きて戻れ!』と命令することも、指揮隊長としての大切な役割かと」。
“決死隊”という名のとおり、命懸けの作業に思えるが、カミヤは「いえ、命は懸けないです」とキッパリ言う。劇中でも「建物は修復できるが、命が失われたら決して取り戻せない」という台詞が心に刺さる。「隊員たち全員が、普段から消防業務に必要なスキルのテストを受けています。だから隊長や小隊長は、どの隊員がなにが得意でなにが不得手なのかも把握しています。例えば、泳げない人は水難事故の避難救助には行けないけど、その人はいろんな機械操作が巧かったりするかもしれない。そこは適材適所を判断し、メンバーを選出します」。
指揮官の素早い判断も日頃やっている訓練の賜だと言うが、そんなカミヤが現場でジャッジを下す際に準拠しているのが“51%ルール”だ。「自分が51%よいと思ったら、もうその時点で動きます。そこは暗黙の了解で、70~80%にいくまで考えていたら、火はあっという間に燃え広がってしまう。また、誰かに進言する時は、1つの提案ではなく、2つか3つくらい提案するのがベストです。1案がダメなら、次は2案といった形で動けますから」。
カミヤは、普段から自己判断能力を磨いてきたと言う。「私が日本で現役消防士だったころは、焼鳥屋に飲みに行くと、パッとメニューを開いてからだいたい2秒でオーダーするものを決めていました。適当に決めるのではなく、ちゃんと感覚を研ぎ澄ませ、本当に自分で食べたいものを選びます。火災の場合は、まず6秒で観察し、2秒で判断しますが、その2秒の間に、その現場でどう自分が動いていくかという活動方針を即決します」。
まさに「日常が訓練の場所なんです」とも語るカミヤ。「例えば飲み屋で、歩くのがちょっと困難そうなおじいちゃんがいたとして、もしもこの人が現場にいたらどうやって助ければいいかとか、90キロを超えた方が2階で倒れたらどうやって階段から下ろすかとか、そういうことばかりを考えてしまう。テレビを観ていてもそうで、妊婦さんが数人の子連れの場合、どう誘導するか、どういう優先順位で助け出すかといったシミュレーションをしてしまいます」。
元福岡市消防局でレスキュー隊員、ニューヨーク州救急隊員、国際緊急援助隊員として、計34か国、約5,000件の様々な災害現場で消防活動し、人命救助した人数は約1,500名以上。現在、日本防災教育訓練センターの代表理事を務め、リスク&危機管理・防災・防犯、各種テロ対策コンサルタント等活動中。著書に、「みんなで防災アクション! 国際レスキュー隊サニーさんが教えてくれたこと」、「ペットの命を守る本: もしもに備える救急ガイド」など。