1,500名超の人命を救助した元消防士が『ノートルダム 炎の大聖堂』を解説…「死者ゼロ」の奇跡を遂げた理由とは?
「もしもこんなことが起きたらという“想定外”を減らし、“想定内”に変えていく」
カミヤによると「パリの消防士は少数精鋭部隊です」とのこと。「彼らはいかにして国を守るかを考えて集められた優秀な人材で、戦闘訓練も受けています。爆弾の処理もできるし、救命士は人を助けられるけど、攻撃されれば人を殺めることができるような訓練も両方受けています。また、その能力をいつでも発揮できるように日々鍛錬していて、即戦力を身に着けていますし、現場の指揮官も様々な予測シミュレーション訓練を繰り返しやっています。そうすることで、もしもこんなことが起きたらという“想定外”を減らし、“想定内”に変えていくんです」。
時代と共に、訓練内容の変化の必要性を実感しているカミヤ。「世界中でスマホが普及すると共に、消防設備にもAIなどが導入され、どんどん進化しているので、火災件数自体は減っています。ただしそのぶん、若い人たちの出動経験が少なくなってしまう。現場の大隊長や中隊長くらいのベテランであれば現場経験が豊富ですが、その人たちが退職したら、その知恵とスキルが受け継がれないケースが多いです。そこは日本でも課題になっていて、ベテランの暗黙知をどう若い人に伝えていくかを考えていかないといけない」。
実際に映画でも、初めて消火活動に参加した新人消防士が、戸惑いつつも与えられた任務に挑んでいく姿が描かれている。「劇中で若者1人が単独で動いていますが、実は違反なんです」と指摘するカミヤ。「隊員は必ず2人以上で行動しなくてはいけない。なぜなら石造りの建物は無線が届かないことが多く、不感地帯で助けを呼んでも、誰にも気づかれないので、煙や有毒ガスを吸っての殉職者が出てしまうのです。だから新人が建物内に入る時は、小隊長や、その人を育成するメンターと一緒に行動すべきです。その際には、突入する隊員の名前や情報をはじめ、退出目標なども報告し、劇中でやっていたように、背中に背負った空気呼吸器なども確認してから、初めて火事現場の中に入れます」。
元福岡市消防局でレスキュー隊員、ニューヨーク州救急隊員、国際緊急援助隊員として、計34か国、約5,000件の様々な災害現場で消防活動し、人命救助した人数は約1,500名以上。現在、日本防災教育訓練センターの代表理事を務め、リスク&危機管理・防災・防犯、各種テロ対策コンサルタント等活動中。著書に、「みんなで防災アクション! 国際レスキュー隊サニーさんが教えてくれたこと」、「ペットの命を守る本: もしもに備える救急ガイド」など。