“マリオ生みの親”宮本茂が語る『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に込めた想い「思い出に寄り添いつつ、初めての方も楽しめるように」
任天堂とイルミネーションが夢のタッグで制作する映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がいよいよ日本公開を迎えた。誰もが知っているゲーム「スーパーマリオ」シリーズを原作にした本作は、先行して公開された北米では記録的大ヒットとなるなど、世界中で驚異の「スーパーマリオ」旋風を巻き起こしている。
MOVIE WALKER PRESSでは、マリオの生みの親であり、本作の共同プロデューサーも務める任天堂代表取締役フェローの宮本茂と、同作を手掛けたイルミネーションのCEO、クリス・メレダンドリにインタビューを実施。演出面でのこだわりや、各キャラクターの人物像を確立するうえで意識したポイント、さらには任天堂とイルミネーションの「コンテンツ制作における共通点」について語ってもらった。
「マリオがようやく人間になったという実感が持てました」(宮本)
――「スーパーマリオ」シリーズは40年以上の歴史を誇る、世界的な大ヒットタイトルですが、このタイミングで映画化に踏み切った理由を教えてください。
宮本「十数年前になりますが、岩田(元任天堂代表取締役社長・岩田聡)と『任天堂のゲーム機が普及している国や、持っている人の間だけでは、これ以上IPを広めることはできない。これからはゲーム以外の展開にも積極的に取り組んで、より多くの方に任天堂のコンテンツを知ってもらおう』といった話をしまして。そこから少しずつ準備を進めて、映像コンテンツに力を入れよう…となった矢先に、たまたまクリスさんとお会いする機会があったんです。そこでいろいろとお話をさせていただいて、意見を交換するうちに、『スーパーマリオ』を映画化するなら、ぜひイルミネーションさんにお願いしたいと思い、制作がスタートしました」
――映画化を検討していたところに最適なパートナーが現れたというわけですね。映画では、ゲームのなかでは描かれないマリオたちの側面も見ることができて新鮮でした。
宮本「キャラクターたちの具体的な設定を決めてしまうと、次のゲームを作るときに制限ができてしまうので、これまではあえて固めずにいました。ですが、せっかく映像化に向けて動き出すからには、その辺りもきちんと見せた方がいいのでは?と思い、マリオたちの内面や家族構成などを描くことにしました。人物像を固めるだけでなく、セリフやキャラクター間の関係性なども丁寧に作り込んでもらえたおかげで、これまで人形のような存在だったマリオが、ようやく人間になったという実感も持つことができました」
――任天堂とイルミネーションの制作に対する姿勢について、お互いに「ここが似ている」と思われる点はありますか?
クリス「私たちは以前から、任天堂に対して非常に大きな敬意、尊敬の念を抱いていました。そうして今回、一緒に仕事をするなかで共通点を感じたのは、“キャラクターを大事にする姿勢”です。映画やゲームを通して、ユーザーと登場するキャラクターたちの距離感や関係性を『いかにして最上の形で構築するか?』というこだわりに近しいところが多く、やり取りもしやすかったですね」
宮本「僕自身の話になりますが、ゲームプロデューサーとは、そのゲームを遊んでくれるすべてのユーザーに対して責任を負う立場だと思っていて。『どうすれば楽しんでいただけるか?』を一番に考えて、会社や上司を説得、開発の了承を得ることがタスクだと捉えています。イルミネーションも最終的な決定権を持つのはCEOのクリスさんですが、チーム全体が“映画を観てくれるお客様”のことを意識していて。より良い作品にするために、それぞれがどんどんアイデアを出して、徐々に形がまとまっていくスタイルがうちと似ているなと思いました」
「楽曲については、ベストな形に落とし込むために何か月も話し合いました」(クリス)
――ゲームの設定を映画に反映させるうえで、こだわった点や苦労したポイントを教えてください。
クリス「イルミネーションのスタッフは、みんな『スーパーマリオ』シリーズの大ファンなので、それぞれがやりたいアイデアを大量に持っていました。それらをどうやって盛り込み、どのように見せるべきかをまとめて、宮本さんに確認してもらいました。そのなかでGOサインが出たアイデアを、より洗練させて詰め込む形で、映画の尺に収めていきました。もちろん我々だけでなく、任天堂チームからもアイデアをいただいて、『スーパーマリオ』の映画である以上“これは絶対に外せない要素"を共有しながら作業を進めていきました」
――具体的に、どういった要素について話し合われたのでしょうか。
クリス「例を挙げるとしたら、近藤浩治さん(任天堂企画制作本部サウンド統括グループマネージャー)が手掛けられた楽曲の数々についてですね。『スーパーマリオ』シリーズの楽曲はもちろん使うとして、そこに映画のために制作した新しい曲も加えました。新旧のバランスを調整する必要もあったので、ベストな形に落とし込むために何か月も話し合いました。そうすることで音楽も劇的に進化したので、鑑賞時には楽曲にも意識を向けてもらえるとうれしいです」
宮本「アイテムに関しては、クリスさんの方から『作中ではアイテムにもフィーチャーしたい』と言ってもらえたので、そこからどんどん『アイテムの見せ方』についての方向性も固まっていきました」
――シリーズファンにとっては、アイテムの見せ方も気になるポイントですね。
宮本「そうなんです。だからこそ『各アイテムの機能の説明』についてはこだわりたかったのですが、どう見せるのがベストなのか、我々だけでは良いアイデアが浮かばなくて…(苦笑)。マリオのゲームを遊んだことがある人なら、見ただけですぐにわかるような機能でも、やったことがない人にはわからない部分が多々あるので。いかに短時間かつ手短に説明するかが映画化における課題だと考えていたんです。
けれどもクリスさんたちは、そういった演出について僕たち以上に精通されていて、しかもゲームに関する知識もあるので、こちらの意図を正確に汲んでくれました。結果的に、物語のテンポを損なうことなく、それでいて未プレイの方でも十分理解できる形で、様々なアイテムを登場させてくれました」
――説明セリフもなく、マリオたちの挙動だけでアイテムの使い方が自然と伝わってくる演出は印象的でした。
宮本「それともう1点、任天堂のゲームは『ほかの人がプレイしている画面を、遊んでいない人が見ても楽しめる』という“わかりやすさ”も特徴の一つなので、どんなにハイスピードなシーンであっても、『そこでなにが起きているのか』をわかるようにしてほしいことは、要望として伝えさせていただきました」
――せっかくのアクションシーンなのに、見えないともったいないですからね。
宮本「これに関しては、キャラクターのアクションだけでなく、よりよく見せるために地形から考えて作ってもらっているので、非常に見応えのあるものに仕上がっていると思います。『スーパーマリオ』シリーズをプレイしたことがある方の思い出に寄り添いつつ、初めて触れる方にも楽しんでいただけるように、すべてのシーンが絶妙なバランスで描かれているので、どうぞご期待ください」