舞台「パラサイト」演出を手掛けた鄭義信「人間にとって本当に価値のあるものとはなんなのか」
「舞台は観客と作りあげていくもの。マイノリティだからこそできる、パワフルな作品を届けたい」
小さな焼肉店を営む在日コリアンの家族が、時代の波に翻弄されながらも力強く生きる姿を描いた舞台「焼肉ドラゴン」の作・演出によって、数々の演劇賞に輝いた鄭。同作は、自身が初となる監督を務めて映画化もされた。鄭は、映画、舞台、それぞれのよさをどのように感じているだろうか。
「舞台は、すぐそばに役者がいて、その体温や汗、空気感のすべてを生で感じることができる。役者の表現する喜び、悲しみもストレートに感じることができます。またコロナ禍以降、『舞台は観客と作りあげていくものなんだな』としみじみと感じました。僕は公演が始まっても、千秋楽まで稽古をして、観客の反応を見ながら『こうしたほうがいい』といろいろと変えていくタイプなんです。稽古を積み重ねて作っていくものだけれど、観客を前にすると役者の演技もよりビビッドになる。やっぱり、笑いがあるところでは、もっとウケたくなったりするものなんですよね(笑)。そういった生の反応を取り入れていけるのが、舞台のおもしろいところ」と思いを巡らせながら、「映画では、撮影をして編集をしたものを観客にお見せするわけですが、それでもやはりその場の空気感って、映像に残るものだなと感じています。『焼肉ドラゴン』では、ラストに“家を潰す”というシーンがありますが、あれは映画だからこそできたもの。僕の掛け声をきっかけに家を壊して、それをスローモーションで撮っています。合図の瞬間は、ものすごくドキドキしましたね。作りあげたものを一瞬にして壊すことができるという、臨場感。そういった空気も映しだすことができると感じられたのが、映画『焼肉ドラゴン』です。舞台には舞台、映画には映画のよさがあって、どちらもとてもおもしろいものだなと思っています」。
鄭の作品には、観客を釘付けにするエネルギーが満ちている。そのパワーの秘密について、日本生まれで在日コリアン三世という出自に触れながら「僕自身がマイノリティだから」と笑顔を浮かべる。「特殊な環境と言いますか、ほかの演劇人とは生まれも育ちも違います。自分がマイノリティだからこそ、上から目線ではなく、下から人々を見つめながら、物語を発信していこうとしている。下からなにかを発信しようとすることって、やっぱりそれだけの力がいるもの。だからパワフルだと言われるものができるのかなと感じています。あとは、関西人特有の“しつこさ”ですね(笑)」と自己分析しながら、『パラサイト』では、『人間にとって本当に価値のあるものとはなんなのか』と感じていただけたらとてもうれしいです。観終わって、ほっこりするのか、悲しくなるのか、それは人それぞれだと思いますが、濃いドラマ、そして人間を見つめられるような舞台をお届けしたいと思っています」と熱を込めていた。
取材・文/成田おり枝
東京:2023年6月5日(月)~7月2日(日) THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
大阪:2023年7月7日(金)~17日(月・祝) 大阪・新歌舞伎座