舞台「パラサイト」演出を手掛けた鄭義信「人間にとって本当に価値のあるものとはなんなのか」
「ソン・ガンホさんの放つ重厚感やリアリティを出せるのは、古田さんしかいない」
キャスト陣には、映画、舞台、ドラマに引っ張りだこの実力派俳優がズラリと顔を揃えた。金田家の主、金田文平を演じるのは古田新太。映画ではソン・ガンホが演じていたポジションだが、鄭は「ソン・ガンホさんが演じたお父さん役は、日本でやるならば古田新太さんしかいないと思っていた」と初タッグとなった古田を信頼しきり。「私もそうですが、スタッフ一同、ソン・ガンホさんの放つ重厚感やリアリティを出せるのは古田さんだけと思っていましたので、引き受けていただいて万々歳です。古田さんを中心に、ほかのキャストの方々を考えていきました。バンバンすごい方たちが決まっていったような感じで、僕自身も驚きです」と話す。
高台の豪邸に住む永井家の家庭教師としてアルバイトを始める文平の息子、純平役の宮沢については、「氷魚くんの舞台を観に行ったこともありますし、彼も僕の舞台を観に来てくれたこともあって。ものすごい好青年なんですよ」と印象を口にし、「その好青年をどうやって崩していくのかが、今回の見どころ」と期待。純平の妹、美姫役を伊藤沙莉、文平の妻の福子役を江口のりこが務め、「沙莉とはこれまでにも作品をやったことがありますし、とても信頼しています。江口さんは、僕と同じ姫路出身で、若いころから『いつか一緒にやりましょうね』と話していたんです。なかなかそれが実現しないでいるうちに、彼女が大ブレイクをされて。江口さんと沙莉の母娘役というのも、どうスパークするのかとても楽しみにしています」と鄭自身、彼らの起こす化学反応にワクワクしている様子。錚々たる顔ぶれを見渡しながら、「濃いメンバーですよね。きっといろいろなことをしでかしてくれるはず。もはや猛獣使いの気分です」と笑顔を見せていた。
「『パラサイト』をやるならば、舞台を関西に置き換えたかった」
舞台ならではの「パラサイト」を披露するために、あらゆる可能性にチャレンジしている本作。それぞれの感情が入り乱れ、クライマックスに向けて怒涛の展開となる物語は、90年代の関西を舞台に繰り広げられる。
鄭は「『パラサイト』という作品が、遠い国の、遠い話というわけではなく、身近なところにもある話だと思っていただきたかった。どんどん見えにくくはなっていますが、もちろん日本にも貧富の差があります。それを軸に、身近にいる人たちの苦しみ、悲しみ、せつなさを共感できるような形で観客に届けたいと思った」と胸の内を吐露。「映画のように水がドバーッとあふれてくるようなスペクタクルな描写をすることはできませんが、そのぶん、舞台ではより濃い人間関係を描きたいと思っています。オリジナルの展開もありますよ」と意気込み、続けて「『パラサイト』をやるならば、関西に置き換えたかった」と語る。
関西弁も、本作に特別な力を加える。「関西弁は、たおやかさと力強さ、その両方を持っている方言だと思います」と切り出した鄭は、「そして、すべてを笑い倒す力がある。政治や権力などシリアスな社会問題を語っても、笑えるものにすることができる。『泣くロミオと怒るジュリエット』では、関西弁でシェイクスピア劇をやりましたが、関西弁にすることで、シェイクスピア劇も身近な物語に見えてくるんですね。土着的で荒々しい部分もおもしろいですし、関西弁で書かれている戯曲もそんなには多くないので、書けるうちにたくさん書いておきたいなと思っています」と、観客の共感と笑いを刺激するうえで、関西弁は重要な要素になるという。
東京:2023年6月5日(月)~7月2日(日) THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
大阪:2023年7月7日(金)~17日(月・祝) 大阪・新歌舞伎座