アジアの作家たちが大躍進。第76回カンヌ国際映画祭が提示した“新たな映画の可能性"
第76回を数えるカンヌ国際映画祭が今年もフランスのカンヌで行われた。今年は是枝裕和監督の『怪物』(公開中)で坂元裕二が脚本賞を受賞、ヴィム・ヴェンダース監督が日本資本・日本を舞台に撮った『Perfect Days』で役所広司が男優賞に輝く快挙を受けて、日本でも大きく報道された。改めてこの映画祭が提示したものとはなんだったのか?
2023年のカンヌ映画祭を一言で表すと、"完全復活”。パンデミック以来、中止(2020年)、7月に延期(2021年)、縮小開催(2022年)と順を追ってリハビリを続けてきたカンヌは、まずラインナップの豪華さで面目躍如を果たした。コンペティション部門にはパルムドール受賞経験のある監督作が並び、それらを迎えるのは昨年の『逆転のトライアングル』(22)と『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(18)でパルムドールを2度受賞しているリューベン・オストルンド審査員長ら審査員団。
力作ばかりで批評家たちの星取りも平行線をたどったが、ウェルメイドなミステリー法廷劇との評価が高かった『Anatomy of a Fall』がパルムドールを受賞した。ジュスティーヌ・トリエ監督は、『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン監督、『TITANE/チタン』(21)のジュリア・デュクルノー監督に続き、3人目のパルムドール受賞女性監督となった。ちなみに、デュクルノー監督も今年の審査員団に名を連ねている。
コンペ外の上映では、レッドカーペットにスター俳優集結!
コンペ外の上映には、今夏から賞レースシーズンまで映画界を賑わせそうな作品群が並んだ。カンヌの街が最も盛り上がる週末に上映されたのは、マーティン・スコセッシ監督が盟友のレオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロを初共演させた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(10月6日公開)。ハリソン・フォードが5度目のインディ博士を演じる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日公開)は映画祭序盤に、そしてクロージングでは火・水・土・風の元素たちが暮らす世界を描いたディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』(8月4日公開)が上映された。
ウェス・アンダーソン最新作『アステロイド・シティ』(9月1日公開)に出演した、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン…といったスターたちは、リムジンではなく大型バスに乗り込んでレッドカーペットに登場した。
トッド・ヘインズ監督がわずか23日間で撮ったという『May December』は、親子ほど歳の離れた夫と暮らす有名女優(ジュリアン・ムーア)の役を演じるにあたり、野心家の女優(ナタリー・ポートマン)がメソッドアクトのために取材を行う物語。ミシェル・ルグランの既存曲をアレンジした音楽が奇妙な後味を残す。オープニング作はフランスのマイウェン監督・主演の『Jeanne du Barry』で、ルイ15世を流暢なフランス語を駆使して演じたジョニー・デップも、私生活のゴタゴタを乗り越え“映画界復活”となった。昨今増えているドラマ作品では、ジョニー・デップの愛娘リリー・ローズ・デップとミュージシャンのWeekndが主演した「THE IDOL/ジ・アイドル」がプレミア上映され、BLACKPINKのジェニーもレッドカーペットに姿を現した。
カンヌ・プレミア部門には北野武監督の『首』(11月23日公開)、そして31年ぶりに映画監督へ“復活”を遂げたスペインの巨匠、ビクトル・エリセの『Cerrar Los Ojos』、特別上映作品では、ペドロ・アルモドバル監督がイーサン・ホークとペドロ・パスカルを迎えて撮ったクィア西部劇短編『Strange Way of Life』、クラシック部門では昨年亡くなったジャン=リュック・ゴダール監督の遺作となった短編映画『Trailer of the Film That Will Never Exist : "PHONY WARS"(英題)』が上映されている。