『ザ・フラッシュ』、ピクサー最新作、ウェス・アンダーソン監督作が、北米ランキングに初登場!
先週末(6月16日から18日)の北米興収ランキングは、DCユニバースの最新作『ザ・フラッシュ』(日本公開中)が初登場で1位を飾った。22週ぶりにランキング上位5作品がいずれも興収1000万ドルを超えるなど全体の活況ぶりが窺えるなか、しかもディズニー&ピクサーの新作『マイ・エレメント』( 8月4日日本公開)を押さえての首位発進。それだけ聞くと上々のスタートダッシュに思えるが、実際のところは少々苦戦を強いられているようだ。
昨秋にDCスタジオの共同会長兼CEOに就任したジェームズ・ガンが、「いままでで最高のスーパーヒーロー映画の1本」と語っていた『ザ・フラッシュ』。その初日から3日間の興収は5504万ドル。事前の予測では1億ドルを超えるオープニング成績となるとみられていたが、それには遠く及ばず。『ブラックアダム』(22)のオープニング興収6700万ドルをも下回る数字となり、2億ドルの製作費の回収はかなり厳しい状態に。
もっとも過去には初週末の興収が6787万ドルながら最終興収3億3500万ドルまで跳ね上がった『アクアマン』(18)のような例もあるが、いまは強力な超大作がひしめき合うサマーシーズンの真っ只なか。批評集積サイト「ロッテン・トマト」によれば批評家からの好意的評価の割合は66%に留まったものの、観客からのそれは85%と好意的に受け止められている模様。
来年以降に展開していく新たなDCユニバースに向けてのリセット期とされている2023年。残る2作品、8月北米公開の『Blue Beetle』、12月北米公開の『Aquaman and the Lost Kingdom』でどこまで勢いを伸ばせるかに、今後のDCの命運がかかっているといえよう。
一方、『ザ・フラッシュ』に敗れて2位スタートとなった『マイ・エレメント』も苦境に立たされている。こちらも2億ドルの制作費が投じられた力作だが、週末3日間の興収は2960万ドル。公開3週目で3位にランクインした『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(日本公開中)との差はわずか260万ドルと、なんとか辛勝することができた印象だ。
それでもこのオープニング成績は、ピクサーのブランドが確立して以降の拡大公開作品として『2分の1の魔法』(20)よりも1000万ドル近く下回る歴代ワースト。「ロッテン・トマト」での批評家からの好意的評価の割合は75%と、同じピーター・ソーン監督が手掛けた『アーロと少年』(15)と同等の評価となった。
拡大公開の上位2作品がよもやの事態に直面しているなか、10位にランクインしたウェス・アンダーソン監督の『アステロイド・シティ』(9月1日日本公開)に注目したい。6館での限定公開でありながら、興収は84万5143ドル。1館あたりのアベレージは14万2320ドルと、初週末の歴代シアターアベレージランキングで15位に入る好発進を成し遂げた。
このシアターアベレージランキングは、封切り前に超限定的な先行上映を行なっていた時代のディズニーアニメが上位を占めているが、それらとツアー上映という特殊な上映形態が取られたケヴィン・スミス監督の『レッド・ステイト』(11)を除けば、『アステロイド・シティ』の上位にいるのは4作品。1館あたり20万ドルを超えた『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)、同17万6220ドルの『ラ・ラ・ランド』(16)、同15万8364ドルの『アメリカン・スナイパー』(14)、そして同14万7262ドルの『ザ・マスター』(12)だけだ。
いずれもその年の賞レースをにぎわせた作品なだけに、『アステロイド・シティ』も一気に賞レースの主役候補に躍りでたと見ることもできる。とはいえ「ロッテン・トマト」を見ると作品評価は意外なほどに伸び悩み気味。批評家からの好意的評価は74%、観客からのそれはウェス作品ではもっとも低い61%。これがどのような影響をもたらすのかは、今後続々公開されていく有力作次第であろう。
文/久保田 和馬