相撲ファンも唸った!「サンクチュアリ -聖域-」の特異性を改めて考える|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
相撲ファンも唸った!「サンクチュアリ -聖域-」の特異性を改めて考える

コラム

相撲ファンも唸った!「サンクチュアリ -聖域-」の特異性を改めて考える

2023年も早くも7月となり下半期が始まったが、上半期最大の話題を呼んだドラマといえば、間違いなくNetflixオリジナルシリーズが「サンクチュアリ -聖域-」(配信中)だろう。ゴールデンウィークに配信スタートするや、Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で10位、世界50以上の国と地域で「今日のシリーズTOP10」入りし、著名人によるSNSでの発信がニュースとして取り上げられるなど、社会現象といえる人気を博している。

1500年以上もの歴史を誇る伝統文化で、世界的な知名度を持つ日本の神事「大相撲」。本作はこの神秘のベールに包まれた世界を舞台に展開する。主人公は一ノ瀬ワタル演じる人生崖っぷちの新人力士、猿桜こと小瀬清。類まれな格闘センスと恵まれた体格を持ちながら、札付きの元不良で挑発的な態度で兄弟子たちに噛みついていた猿桜が、しだいに相撲と真剣に向き合うようなり、底辺からのし上がっていく。どこか閉塞感漂う現代社会に風穴を開けるような痛快な人間ドラマが展開される本作の特異性を、大相撲を“偏愛”する映画ライター・編集者の後藤岳史が、角界ならではの背景の解説と共に語っていく。

元不良の新人力士が大相撲の世界に風穴を開ける「サンクチュアリ -聖域-」
元不良の新人力士が大相撲の世界に風穴を開ける「サンクチュアリ -聖域-」Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

物語を“暴発”的に牽引する元不良の主人公と脇を固めるクセ者たち

土俵。そこは古来チカラビトと呼ばれた力士の聖域だ。びんづけ油が香る大銀杏の髷。霧吹きされた廻し。柏手を打って塵を切る。四股を踏む。塩を撒く。掲げた軍配が黒光りする。彼方から相撲甚句が響くや、その名調子が暴発するように激しくビートを変え、立ち会い一閃、肉が弾け、足の指が土を噛み、踏ん張る摺り足が土煙を巻き上げて土俵際の投げ技が決まる。タイトルバック映像に、大相撲の力感と様式美が凝縮されている。

小瀬は北九州・門司出身の不良青年。大儲けできるとの口車に乗せられて上京し、相撲部屋に入門する。礼節心ゼロ、相撲を喧嘩の延長みたいにナメきったこの悪童と、昔気質の稽古の仕方にこだわって傾きかけた部屋、という取り合わせが上手い。マイナスの札とマイナスの札が掛け合わさる“暴発”が連続し、いつしかプラスにひっくり返る。

【写真を見る】徹底的なトレーニングによって力士の肉体を作り上げた猿桜役、一ノ瀬ワタルらの覇気がハンパない!
【写真を見る】徹底的なトレーニングによって力士の肉体を作り上げた猿桜役、一ノ瀬ワタルらの覇気がハンパない!Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

物語を脇から動かすクセ者の第一が、ピエール瀧快演の猿将親方だ。現役時代は、次期理事長職をねらう謀略家、犬嶋親方(松尾スズキ)の横綱昇進をライバル大関として幾度も阻んだ。小瀬をだまし討ちにしてチミモウリョウの異界に引きずり込んだ格好だが、「相撲界をぶっ潰す」と乱暴狼藉を繰り返す問題児の才能を即座に見抜く。型を守り破り離れる“守破離”が信条の異能派らしく、ポリコレとコンプラに縛られた現代の落伍者に見えて、不敵な笑みと粘り腰の反面を持つ。

“力士は金持ちになれる”と半ばだます形で小瀬を相撲界に引き入れた猿将親方を演じるピエール瀧
“力士は金持ちになれる”と半ばだます形で小瀬を相撲界に引き入れた猿将親方を演じるピエール瀧Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

第二の脇役は忽那汐里演じる新聞記者の国嶋。政治部デスクから特ダネの掲載約束を取りつけながら外圧と保身が絡んで反故にされ、スポーツ部相撲班に飛ばされた。アメリカ育ちで、猿将部屋は兄弟子のイジメまがいのパワハラひしめくケダモノの巣窟にしか見えない。そこを機能不全にすべく混入されたバグみたいな小瀬は、美女と野獣、教養人とゲス野郎の違いはあれど、不遇な状況をぶっ壊したい武闘派という似た者同士だ。相撲界に対して圧倒的部外者の眼を持つ彼女は、こうして小瀬の取材にのめり込んでゆく。

小瀬の取材にのめり込んでゆく忽那汐里演じる新聞記者の国嶋
小瀬の取材にのめり込んでゆく忽那汐里演じる新聞記者の国嶋Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

猿将親方が見守り、記者の国嶋に見据えられる朝稽古は、この青春群像劇の背骨にしてボディだ。権力争い渦巻く角界のすったもんだを経巡っては、土俵の円のように還ってくる場所となる。相手を指名する申し合いに、ぶつかり稽古。四股もろくに踏めず、足腰の基礎鍛錬が足りない小瀬は、当初1ミリも兄弟子を押せない。朝の光がほのかな陽だまりをつくる板壁へ、肉弾と化して何度も跳ね飛ばされる。息が上がり、意識朦朧として這いつくばると、冷水と土饅頭が襲ってくる。


喧嘩は強い小瀬だが、基本ができていないため、何度も兄弟子たちに投げ飛ばされてしまう
喧嘩は強い小瀬だが、基本ができていないため、何度も兄弟子たちに投げ飛ばされてしまうNetflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中
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