【ネタバレあり】40年以上にわたる“宮崎駿ワールド”を追体験!『君たちはどう生きるか』に込められた名作たちからのレガシーを探る

コラム

【ネタバレあり】40年以上にわたる“宮崎駿ワールド”を追体験!『君たちはどう生きるか』に込められた名作たちからのレガシーを探る

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

やはり、宮崎駿監督は凄かった。10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』(公開中)は宮崎監督の集大成と言われるだろうが、それだけではない。まず基本となる物語を簡単に。第二次世界大戦中の東京。少年、牧眞人(声:山時聡真)は、火事で母親ヒサコ(以下の役名は正式表記が発表になっていないので、すべてカタカナ表記にする)を失う。一年後、ヒサコの実家がある田舎へ疎開した眞人は、父親から新しい母親として、ヒサコの妹ナツコを紹介される。ナツコは妊娠中で眞人にも優しく接するが、眞人のほうはその状況を受け入れられずにいる。やがてナツコが行方不明になり、眞人は人語を話すアオサギに導かれ、別世界へナツコを探す旅に出ていく。

随所に見られる宮崎作品へのオマージュ

冒頭の火事のシーンは、炎の熱波に抗って眞人が母親のいる病院へ向かう一連の表現が圧巻。宮崎監督は『風立ちぬ』(13)で関東大震災を描いたが、あの時は不気味に大地が響く“音”によって震災の恐怖を表現した。そこでやれなかった震災に伴う火事の凄まじさを、今回は人間に襲いかかる熱波の揺らぎを眞人の視点から見せることで、見事に映しだしている。

関東大震災の恐怖を不気味に大地が響く“音”で表現した『風立ちぬ』
関東大震災の恐怖を不気味に大地が響く“音”で表現した『風立ちぬ』[c] 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

このプロローグ部分は『風立ちぬ』を受け継いだリアリズムの表現だが、眞人が疎開してからは一転、ファンタジー的な表現が前面に出てくる。ナツコが家の裏にある森へ入って行くのを目撃した眞人は、彼女が行方不明になったと聞いて、迷わず世話係の老婆の一人、キリコと共に森へと入って行く。この森の入り口が、『となりのトトロ』(88)でメイがトトロの世界へ入って行く構図に似ている。

『となりのトトロ』のような不思議の世界へ迷い込んでいく感覚も
『となりのトトロ』のような不思議の世界へ迷い込んでいく感覚も[c] 1988 Studio Ghibli

眞人とキリコは、廃屋と化した謎の塔から本格的に別世界へと入るが、彼らを導くのが人語を話すアオサギ。別世界で眞人とアオサギはコンビのように行動するが、完全な鳥から顔だけ人間のおっさんへと変幻自在に変化するアオサギは、鳥の足のまま動く様を見ても、『崖の上のポニョ』(08)のポニョのバリエーションと言えるキャラクター。つまり、アオサギと眞人は、ポニョと宗介のような冒険仲間なのだ。

『崖の上のポニョ』におけるポニョと宗介の冒険仲間のような趣きも感じられる
『崖の上のポニョ』におけるポニョと宗介の冒険仲間のような趣きも感じられる[c] 2008 Studio Ghibli・NDHDMT

やがて彼らは人間大のインコが幅を利かせた世界に行くが、このインコ大王が来ている服の色は赤地に黄色のたすき。これはもう、『ルパン三世 カリオストロの城』(79)のカリオストロ伯爵で、眞人がインコ大王を追って木の階段を上っていくと、大王が階段を斬り落としてしまうという、『カリオストロの城』における時計塔の攻防を思わせるアクション場面もある。

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