イタリア映画界の“クドカン”!?俳優でも監督でも存在感抜群…エドアルド・レオの魅力
場所の制限なく多くの人々にイタリア作品を届けたい
レオなどイタリア映画界の才能を数多く日本に紹介している野村。彼自身はイタリアの最新映画情報をどうやってリサーチしているのか聞いてみると、「日本ではイタリア映画祭が主だった作品を上映してくれるショーケースとして機能しているので、そこから漏れたおもしろいものはなにか、ということをチェックします」とのこと。「僕らが運営している京都ドーナッツクラブでは、毎年テーマを決めてイベントを開催し、作品を紹介しているんですが、テーマに即したものに絞り込んで、DVDやブルーレイを取り寄せ、現地の映画評を読みながらさらに絞り込んでいきますね。とにかくうちはお金がないので(笑)、上映回数を限定しておもしろい作品の上映実績を作っています。この活動を続けていくことで、定点観測ができたのもよかったんだと思います。流行りの映画作家や俳優がわかるようになりますからね。また、ローマ在住で僕と同世代の映画プロデューサーが買い付けに協力してくれているので、交渉事を任せられるのはアドバンテージになってますね。例えば、狙ったタイトルがすごく高額だったら、似たようなテーマでこういう作品があるよ、とか提案してくれるんです」。
だが、「字幕をせっかくつけたのに、上映権が切れちゃってもう上映できないという作品もたくさん眠っています」と言う。「そういう蓄積があるのに、DVD化もできないし、どうしようと思っているところにスターチャンネルの飯森プロデューサーからお話をいただいたんで、本当にありがたいことでした。僕らは東名阪ではイベント上映することができても、そのほかのエリアの人には届けられませんでしたから、スターチャンネルさんのように加入者だったらどこでも観ていただける環境を作ることができたのはものすごくうれしかったです」。
そして、今回の特集で配信されるのが、エドアルド・レオが出演している『わしら中年犯罪団』(19)と『帰ってきた中年犯罪団』(21)だ。「実は字幕作業がめちゃくちゃ大変で(笑)。圧倒的なセリフ量なんですよ。イタリア映画祭で上映される作品も僕らが字幕を請け負うことがあるんですが、映画祭に出品されるような作品はセリフがすごく少ないけれど、娯楽作、それもエドアルド・レオの作品は、映画祭の出品作と同じ上映時間だったとしても、セリフは倍かそれ以上。それも、すごく練りに練ったセリフ回しなので、字幕も相当苦労しています。でも、それをきちんとした翻訳で見せないと、抜群にうまい役者の芝居の楽しみが半減しちゃいますから」。
見た目の若さより実力を重視するイタリア
ちなみに、『わしら中年犯罪団』と『帰ってきた中年犯罪団』含めて、登場人物は男女共に若者よりも中年以上の人が多いのもイタリア映画の特徴だ。「イタリアらしいことなんですが、若さが美徳という価値観じゃないからなんですよね。いわゆるアイドルが存在しない。『Xファクター』などのオーディション番組が流行していることもあって、若い才能が以前よりは表舞台に出ることは増えましたが、見た目の若さなどは人気のバロメータにならないんです。内容と実力がないと人気が出ない。音楽でいうと、20代のアーティストで大ブレイクすることはほとんどないですし、シンガーソングライターだったら30代以降じゃないと芽が出ません。映画も同じで、ある程度の年齢を重ねた俳優じゃないと、説得力に欠くというイメージがありますね」。
「大人の世代の俳優や監督が本気を出してくるのがイタリアの娯楽映画」とも力説する。「なので、作品自体もおもしろくなるのは当たり前なのかもしれません。異例だったのは『いつだってやめられる』シリーズの監督シドニー・シビリアですね。彼はあの三部作を30代で作ってしまったんですよ。シビリアはいま41歳ですが、彼のようにハリウッド映画のいいところを取り入れたうえでローカルに落とし込む作品を作りだす才能は、これからバンバン出てくるんじゃないかと期待しています」。
取材・文/よしひろまさみち
■野村雅夫
ラジオDJ、翻訳家。大阪のFM802での様々な番組を経て、現在は姉妹局FM COCOLOのモーニングショー「CIAO 765」を担当。イタリアの知られざる文化を日本に紹介する株式会社京都ドーナッツクラブの代表も務め、映画の字幕制作、コラム執筆や書籍の翻訳も手掛ける。
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