イタリア映画界の“クドカン”!?俳優でも監督でも存在感抜群…エドアルド・レオの魅力
日本とイタリアの映画界の共通点を考察
イタリア特有の映画事情が、いまの若手の映画人にも影響していると分析する。「イタリアの若手監督たちは、自分たちのルーツを再発見するみたいな探求をしているんですよね。例えば、クラシックの名作の修復などにはずっと力を注いでいますし、その分野では世界でも最前線にある国であることは間違いないです。ただ、世界的にもそうだと思いますが、90年代に映画産業が斜陽期に入ってしまうと同時に、映像がデジタル化したことによって、映画というものがより身近なものになっていきましたよね。いまでこそ誰でも映画を作ることができるようになっていますが、そのサイクルに入っても、イタリアは一定以上のクオリティを保ち続けている。それは、ルーツを愛でる文化によるところが大きいと思います。ただし、国際的な大ヒットを導きだすイタリア映画は少ないんですけどね」。
「日本とイタリアの映画界ってすごく似てると思います」と2国の映画事情に関しても分析。「日本で国際的に評価が高くてヒットするのって、アニメじゃないですか。それ以外のジャンルでも優れた映画作家はたくさんいるはずなのに、国際映画祭とのコネクションをきっちり持っている一部の名が通った監督の作品だけが世界の舞台に出てる感じ。じゃ、その監督たちの作品だけが日本の映画カルチャーを表しているか?というと、そうじゃない。イタリアもまったく同じで、他国で持たれているイメージと現地のそれが乖離してるんです。だから、イタリアではすごく高い評価を受けているのに、国際舞台ではまったく知名度がない、っていう映画作家は、実は山のように待機しています。一方、21世紀に入ってからの韓国は、はっきりと自国だけでなく外国のマーケットにも届くようシフトしましたよね。日本もそうだけどイタリアも、世界的に評価が高い芸術的な作品や作家は常にいるけど、もっと大衆に受ける娯楽作は自分の国で受ければそれでいいし、それだけで収支もペイできちゃう、っていう問題を抱えている。その点で日本とイタリアの映画界はよく似てると思います」。
エドアルド・レオのすごいところは映画を作りながらも、自ら舞台にも立っていること
そんなイタリア娯楽映画のキーマンとなるのが、エドアルド・レオだ。「彼の代表作で、日本でもスマッシュヒットした『いつだってやめられる』シリーズを観ればわかりますが、イタリア国内ではもちろん国際的にも受ける娯楽作であると同時に、芸術的にも評価できる作品を作りだしていますから。レオはまだ51歳ですから、これからもっとすごいものを作りだす可能性を持った才能だと思っています。一連の作品を観ていて感じるのは、インテリだけどおもしろい人物ということ。脚本を自分で書けて、監督もできて、おまけに芝居もできる。しかも、ちゃんとした中身のある作品をつくるから、興行成績も非常にいい。これほどの才能なので、期待せざるをえませんよね」。
レオがすごいのは、映画を作りながらも、自ら舞台にも立っていることだそう。「イタリアには、スタンダップコメディと演劇の中間みたいな、1人か2人しか出ない話芸中心の舞台があります。日本の落語に近いかな。彼はそれを映画製作の合間をぬって継続的にやっているんです。しかもお客さんもかなり動員している。レオはもう十分セレブなので、本来そんなことしないで映画作りに没頭していてもいいはずなんですけど、ライブでお客さんを相手にした芝居も続けているのは、彼がイタリアの演劇や映画などの伝統文化を受け継いでいるんだ、という信念みたいなものを感じるんですよね」。
■野村雅夫
ラジオDJ、翻訳家。大阪のFM802での様々な番組を経て、現在は姉妹局FM COCOLOのモーニングショー「CIAO 765」を担当。イタリアの知られざる文化を日本に紹介する株式会社京都ドーナッツクラブの代表も務め、映画の字幕制作、コラム執筆や書籍の翻訳も手掛ける。
京都ドーナッツクラブ公式サイト