“本気”のボクシングシーンに魅せられる!横浜流星、窪田正孝が『春に散る』で挑んだリアル
たった一人で闘ってきた孤高の世界チャンピオンを窪田が体現
一方、最もキャスティングが難しかったという世界チャンピオンの中西利男を演じたのが窪田だ。これまで2本の映画でボクサー役を演じている。
『初恋』(19)は、三池崇史のオリジナルストーリーで描くラブ・バイオレンス。窪田は、類まれなボクシングの才能を有しながらも格下の相手にKO負けし、診察を受けた病院で余命宣告を受ける天涯孤独のプロボクサーである葛城レオを演じた。呆然自失で新宿歌舞伎町を歩くレオは、逃げ去る少女モニカの助けを呼ぶ声を聴き、とっさに追っ手の男を殴り倒してしまう。宙を舞う追っ手という派手な演出にニンマリさせられるとともに、レオのボクサーとしての力量や反射神経をうかがわせる印象的なシーンだ。窪田はこの役ため、撮影の1か月前から体作りをスタート。現役ボクサーが相手役を演じた試合のシーンも自ら演じた。
そして窪田と松浦が出会うきっかけとなったのがヒューマン・ミステリー『ある男』(22)。ヴェネチア国際映画祭で上映され、日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む最多8部門に輝いた。窪田が演じたのは、幸せな家庭を築いているものの不慮の事故で亡くなる谷口大祐。だがその男は大祐の名前をかたった別人だったというミステリアスな役どころだ。どうボクシングが関わってくるかは作品を観てのお楽しみだが、撮影後も窪田はこの作品で共演した松浦から個人的にトレーニングを受けていたという。
『春に散る』では、たった一人で闘ってきた孤高の世界チャンピオンに扮した窪田。「流星君に遠慮されたくない」との想いでプロに匹敵する厳しい特訓を耐え抜き、さらには松浦がかつてミットトレーナーをした縁で元世界チャンピオンの内山高志の指導を受ける機会も得てそのボクシングセンスを磨いていったという。
本作では、翔吾のメンタルの弱さが露呈する川島戦を皮切りに、かつて仁一が世話になった真拳ジムのホープである大塚(坂東)との東洋太平洋タイトルマッチ、そしてたっぷりと尺がとられた世界戦では、翔吾と世界チャンピオンの中西(窪田)との白熱のバトルが活写される。
徐々に規模が大きく、激しくなっていく3試合のフィナーレとなる世界タイトルマッチは4日間にわたり撮影され、その第11ラウンドではアドリブのファイトが繰り広げられた。リアルを徹底的に追求する“役を生きる”横浜と窪田だからこその芝居を超えた演技は圧巻。勝ち負けの次元では語ることのできない魂のぶつかり合いに、誰しも深い感銘を覚え、そして魅せられるはずだ。
文/足立美由紀