キム・テヒ×イム・ジヨンが熱演。予測不能の韓国シスターフッド・サスペンス「庭のある家」って?
関係依存から抜け出すための女性たちのひそやかな絆
「庭のある家」は、ジュランがどんなに庭から漂う悪臭を訴えても家族は取り合わず、彼女は孤立を深めていく。『ガス燈』では、夫が目にはっきり見えるもので妻に心理的圧迫を加えていたが、本作のキーポイントとなる“匂い”は、はっきり目で見たり手で触ることができない上に、嗅覚は人によって千差万別だ。他者と共有しづらい“匂い”によって、ジュランが受けている暴力の見えにくさが暗示されている。
ところがたった一人だけ、ジュランと共有できる人物がいた。隣に引っ越してきた謎の女性ヘス(チョン・ウンソン)だ。閑静な住宅街に響き渡る声で話し、笑顔を振りまきながら唐突に家のドアを叩くヘスは、迷惑で変な隣人としてジュラン一家に迎えられる。
だが初めて挨拶に来た彼女だけが、玄関先で悪臭を感じ取り、ジュランにもそのことを伝えていた。ジェホが「妻は普通ではないんです」と吹き込んでも、聞き入れていない様子だ。ヘスはジュランに、威圧的なジェホのような相手に対抗するには変な女を演じることだと秘訣を教える。余計な関わりを持たれなくなるし、相手がなぜか負けた気持ちになるからだそうだ。朗らかに見えるヘスの人生にも、暴力で口を塞がれた長く暗い時間があった。出逢うはずもなかった二人だが、傷が共鳴し、不思議な絆が芽生えていく。
ジュランとサンウンにも同じことが言える。ユンボムがジェホを脅迫していたことを知ったサンウンがジュランに揺さぶりをかけるなど、二人は当初敵対関係だった。サンウンはDVの記憶がフラッシュバックし、パニックに陥ってしまう。そんな彼女を救ったのはジュランだった。落ち着きを取り戻したサンウンが、ジュランと石段に腰掛けながら夕陽を見つめるシーンがある。夫を介して出逢った二人は、まだ互いの名前を聞いていなかった。名前とは、その人そのものを象徴する。やっと互いに名乗り合う瞬間は、暴力的な伴侶によって奪われた自分を取り戻そうとするように見えて、涙を誘う。
「庭のある家」では、男性たちが妻を家に囲い込んだ結果、彼女たちは他者とコミュニケーションを取れなくなり、感情を隠し、存在を自らを消してしまう。ドラマの終盤、女性たちは男性たちが隠そうとした手を取り合い、見事に復讐を遂げる。その鮮やかさは実に感動的だ。
昨年、貧しい家庭に生まれ育った三姉妹が韓国最大の権力者たちに立ち向かうNetflixドラマシリーズ「シスターズ」が話題をさらったことも記憶に新しい。緻密なストーリーと真実味のある演出が興味を惹くとともに、力を誇示する男性キャラクターよりも、女性中心のキャラクターたちが互いの境遇に寄り添い、連帯する姿が現代社会の共感を呼ぶのだろう。「庭のある家」は、その系譜に連なる傑作女性ドラマだ。
文/荒井 南