“大人の女性と少年”の組み合わせ、予定調和ではないアクション…行定勲監督が『リボルバー・リリー』制作秘話を語る
「アクション映画でありつつも、百合がなぜもう一度なぜリボルバーを握ることになるのか?というドラマ」
16歳からスパイとして暗躍し、わずか3年で57人の殺害に関与した過去を持つ小曾根百合。帝国陸軍資金の鍵を父親から託された少年・細見慎太(羽村)に助けを求められ逃避行を繰り広げていくさまは、少年をかくまうため、銃を片手に女性がマフィアと抗争する『グロリア』(80)なども想起させる。
“大人の女性と少年”というコンビネーションについて聞いてみると、「もともと母親だった百合には、自分の子どもを失った過去がある。その後、彼女の時間は止まったまま、いつの間にか年齢だけを重ねていて。そこに現れた少年は、自分の子どもにしては大きいんだけど、一緒にいるとどこか母性が働くような感覚がある。だけど、大人の女性を前に、少年はどんどん成長していく。そうすると慎太にとって、百合は初恋の人になっていくんです」。
本作が映画初出演となった羽村のフレッシュな演技と、慎太さながらに成長していく顔つきにもぜひ注目してほしい。行定監督も、「叶わない想いだとわかりつつ、憧憬を募らせていく。ともに過ごすなかで、精神的な距離感がどんどん詰まっていく。それが成長というものだと思うんです。でも百合からすると、慎太は“いつの間にかこんなに歳を重ねてしまっていた”と気付かされる対象なんです。そういう風に、お互いがお互いに違う距離感でいるという関係性も素敵だなと思っています」と解説する。
そう、本作は行定監督が「アクション映画でありつつも、百合がなぜもう一度なぜリボルバーを握ることになるのか?というドラマなんです」と語るように、自分で自分の時を止めてしまったような百合がふたたび動き始めるドラマだ。初の本格アクション作品とあって、バランスは迷いながら作っていったそうだが、「アクションシーンでとにかく注目してほしいのは、なぜ戦いが始まるのかという“きっかけ”」と話す。
「アクション映画って、物語上の予定が優先されすぎるように感じることがあって。ジョニー・トーの映画なんかがそうなんですが、勘違いしたフライングの一発が銃撃戦を引き起こしちゃったりする、そういう予定調和ではない“偶発性”を大事にしました。百合としては、本当はこの道じゃないところを行きたかったのに…とか、もっと賢いことをやろうとしたのになんでそこで撃つんだ!みたいな(笑)。どうせ撃ち合いにはなるんだけれど、物語の一部としてアクションシーンを楽しんでもらえたらうれしいです」。
この作品を撮るにあたって見直した作品は『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』(95)だとも明かしてくれた。「押井守監督の『攻殻機動隊』は、すごく端正な銃撃戦やインパクトのあるアクションが、内容云々を超えて忘れられない印象を与えてくれる。実は、昔の東映の任侠っぽさのような匂いすら感じる。あらすじにはまとめづらいストーリーなんですけど、場面の作り方、構造、キャラクター、すべてが点でよくて、世界観を作っている。僕はそういうものが好きだな、と改めて思わされました」。
また、ドラマとしてこだわったポイントは「百合の生き方としての“純度”の高さを描く。それだけは明確に見えていました。例えば先人が作った『ニキータ』とかにも表れているように、自分が“この人は”と思って愛した人が、いかに自分を利用していたとしても、その人のことを信じて傷つく。その“傷つき方”こそが、純粋さの表れですよね」とも語る。
「彼女がずっときれいなドレスを着ているのも、“殺しの時こそ美しくいろ”と言われたことを守り続けているから。人を殺すなんて、汚れ役ですよね。そのことを引き受けてもなお品格を失わず、服だけは綺麗なものを身にまとっている。そこはブレないようにしようと思ってやっていました」。