トラン・アン・ユンがTIFFで自身の映画哲学を語り尽くす!「官能的な感情を映画で表現したい」
第36回東京国際映画祭で24日、「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」が開催。「ガラ・セレクション」部門に最新作『ポトフ 美食家と料理人』(12月15日公開)が出品されているトラン・アン・ユン監督の「マスタークラス」と題したトークショーが行われた。
今年で4年目の開催を迎えた「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」は、是枝裕和監督を中心とした検討会議メンバーの企画のもと、東京に集った映画人たちが語り合うトークセッション。「マスタークラス」では国際的に活躍する映画人が単独で登壇し、司会や来場者からの質問に答えながら最新作や自身の作家性についてなどを深掘りする。本稿では、トラン監督のトークの内容を再構成してフルボリュームでお届けしていきたい。
1962年にベトナムで生まれたトラン監督は、1975年に家族でフランスに移住。デビュー作『青いパパイヤの香り』(93)で第46回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)に輝き、第66回アカデミー賞ではベトナム語映画として初の外国語映画賞にノミネートされる快挙を達成。その後も『シクロ』(95)で第52回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞するなど国際的に活躍を見せ、村上春樹のベストセラーを実写映画化した『ノルウェイの森』(10)が大きな話題に。最新作『ポトフ 美食家と料理人』で、第76回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した。
最新作『ポトフ 美食家と料理人』の成り立ちは?
「本作のような、食べ物に関する映画をずっと撮りたいと考えていました。なぜなら料理は一つの具体的なアートだからです。例えば画家の仕事ぶりを描こうとしたら、すべての工程を見せるのはとても難しいものです。しかし本物の食べ物を使って調理をしている過程は、その工程を含めてリアルに映像に落とし込むことができます。
料理を映像にしようと決めた時、私自身はたくさんのものを排除することにしました。まず排除したのは、美しい映像という見せかけのものです。カットを美しく撮ることよりも、男や女が調理というアートに勤しむ手の動きや体の動きをとらえたい。素材たちが少しずつ姿を変えていく様子をカメラに収めたい。ただ綺麗なだけの撮り方なんてしたくなかったんです。
冒頭に長い調理シーンがあります。料理を作る時、料理人は想像できないような動き方をします。準備段階ではコレオグラフィー、つまり振り付けのようにカメラの動きと俳優たちの動きを組み合わせ、調和を作り出しました。これはとても大変な工程でした。
また本作では、人生の秋に差し掛かった夫婦の愛を描きたいと思っていました。長い時間を一緒に過ごしてきた夫婦の話を対立構造なしに映画にするというのはまた難しいことで、そのような穏やかな夫婦の愛を描くことは監督としての賭けでもありました。
私が映画づくりのうえで大切にしているのは“センシュアリティ”。人生には官能性に関わる二つの大きな事柄があります。それは食べることとメイクラブをすることです。私はそんな官能的な感情を映画として表現したいと思ったのです」