「映画を愛することで、すべてが吹き飛んでいく」巨匠チャン・イーモウが語る、映画づくりの作法と高倉健との思い出

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「映画を愛することで、すべてが吹き飛んでいく」巨匠チャン・イーモウが語る、映画づくりの作法と高倉健との思い出

チャン・イーモウ監督は、どのように映画を作っていくのか?

「映画監督として、あらかじめ完璧な脚本というものにはなかなか出会うことはありません。それがわかっているにもかかわらず、いつもそれを望んでしまう。完璧な脚本が事前にできていて、それに基づいて撮影に入ることができればどれほど幸せだろうか。40年近くの年月のなかで、叶ったことは一度もありません。

「ガラ・セレクション」部門に出品されている『満江紅(マンジャンホン)』
「ガラ・セレクション」部門に出品されている『満江紅(マンジャンホン)』[c]2023 Huanxi Media Group Limited(Beijing) and Yixie(Qingdao)Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.

どんな脚本でも、修正したり発展させたりしていくのには時間がかかる。長い時は10年かかることもあります。それは仕方ないことだと思いつつ、時に私はほかの監督よりも下手なのではないかと感じてしまうこともあります。でもほかの監督たちも同じような問題に直面していました。決して私は遅いほうじゃないんだと気付き、いまでは年1本のペースで監督するようにしています。

これは私の習慣のようなものですが、映画を撮る前には関係者たちと徹底的にディスカッションを重ねていきます。まずは脚本家と、その後に役者やスタッフときちんと議論を重ねる。過去にはクランクイン後に役者と議論をし、多くのインスパイアを受けたことがあります。その時には撮影をストップさせて脚本を直すことになりました。映画というのは1つの産業であり、1本のチェーン。大事な部分は役者であり、彼らの提案や意見は監督にとって大いに役に立つものです。真摯に彼らの考え方を聞き、良いものがあると感じたら必ず採用していくことを常に心がけています。

“第5世代”の監督として走り続け、近年は毎年のように新作を発表している
“第5世代”の監督として走り続け、近年は毎年のように新作を発表している

例えば撮影監督のチャオ・シャオティンさんとは15年以上も一緒に映画を撮り続けているので、私たちの間には暗黙の了解のようなものが出来上がっています。それでもスタッフの皆さんと撮影の前にしっかりと議論を重ね、すべて話をし尽くしてからようやく現場に入るのです。彼らには常にこう言っています。『現場では僕の時間を使わないでくれ』。撮影に入ってからは、私の時間は役者の皆さんと使うものです。だからこそ色彩も衣装もメイクもすべて事前に準備万端にしておきます。

いわば映画を撮るという仕事は、監督にとって宿題のようなものと言えるかもしれません。クリエイティブなチームを率いるため、撮影前にすべての準備を整えてから臨む必要がある。スタイリッシュなアート映画を撮るなら美術スタッフと会議を重ねてメインカラーや作品のトーンを定め、それに合わせてロケーションや衣装を決めていく。逆にリアリズムな日常の暮らしを描く映画ならば、まったく違うやり方になるでしょう。日常生活をリアルにとらえるため、何台ものカメラとカメラマンを用意していくことになると思います。

今回の『満江紅(マンジャンホン)』では、小さいカメラを10台くらい使って撮影を行いました。この映画は群像劇ですから、俳優たちの演技を1秒たりとも逃さずに全部撮っておきたいと思ったからです。1人の役者を1台か2台のカメラがずっと追い続ける。電線や照明が映り込んでもいまはCG技術で消せば良い。そうすることで彼らのすばらしい演技を中断せずに一気に撮ることができる。おかげで撮影日数はそれほど多くかかりませんでした。


撮影中に私はなにをするのかといえば、大きなモニターの前に座って、そこに映る10台近くものカメラの映像を毎日見ることです。まるでマンションの管理人の気分でした(笑)。俳優の方が私のところに来ると、決まってみんなびっくりするんです。『どれを見ればいいんでしょうか?』と。『監督は全部のモニターをちゃんと見ているんですか?』とも訊かれました。大丈夫です。私はいま中国の映画監督のなかで一番モニターを見ている監督だと自信をもって言えるでしょう」

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