“憑依チャレンジ”が引き起こす、命の葛藤。A24『トーク・トゥ・ミー』はなぜ世界中の若者の心を掴んだ?
喪失感と孤独、贖罪に苦しむ主人公の心情を、繊細に映しだす
そのキーポイントは前述したように、主人公ミアが母親を亡くした悲しみに暮れていて、未だ喪失感を埋められずにいるというキャラクター設定にある。そんなミアは気を紛らせるために参加したパーティで、はからずも母親の幽霊とコンタクトしてしまう。それをきっかけに「最愛のママと、もっとつながりたい」というせつなる欲求を強めたミアは、ますます呪物の“手”に依存するようになり、想像を絶する災いを招き寄せるはめになる。
その後ミアは病院で生死の境をさまよっている親友の弟ライリーを救うために、ある重大な選択を迫られていく。つまり本作は、単なるショック&サプライズ系のホラーにはとどまらない。孤独や贖罪の念に苛まれるミアの極限心理をこのうえなく繊細かつ生々しく表現し、観る者の感情移入を誘いながら悪夢のスパイラルへと突き進んでいくエモーショナルな恐怖映画なのだ。
“命”をめぐる葛藤が、観客の胸に迫る
そして衝撃的な展開が待ち受けるクライマックス、その先のエンディングまでまったく目が離せない本作は、驚くべきことに観客それぞれの異なる解釈を可能にしている。これは十代の若者が主人公で、なおかつシネコンで大規模に公開されるタイプのホラーでは珍しいケースだ。
例えば本作の序盤には、ミアとライリーが夜の路上で車にひかれて瀕死状態のカンガルーに遭遇するシーンがあるのだが、これは物語上の暗示と伏線になっている。カンガルーを耐えがたい苦痛から解放するには、自らの手で殺してやるしかないのだが、果たして生き物の尊い命をそんなに簡単に奪うことができるだろうか?
そうした“命”をめぐる葛藤こそがこの映画の核心的なテーマであり、ホラーというジャンルが提示し得る重要な命題の一つである。その本質的な恐怖をとことん緻密に追求した『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、いままさに怖いもの好きの日本の映画ファンをおいでおいでと“手”招きしているのだ。
文/高橋諭治