映画の中の“忠臣蔵”は実に様々!赤穂浪士の泣けるドラマから騎士道もの、コメディ時代劇『身代わり忠臣蔵』まで
元禄15年12月14日(旧暦)、赤穂義士四十七士が主君の仇を討ったという史実「赤穂事件」を基に脚色されたフィクション「忠臣蔵」。日本人に最も愛されている時代劇といえるこの物語は、江戸期から現在にいたるまで、人形浄瑠璃、歌舞伎、小説、映画、ドラマなど、数えきれないほどの作品の題材になってきた。特に映画では、オーソドックスな「忠臣蔵」の物語をユニークな切り口で描いたものも多く、2024年には新作映画『身代わり忠臣蔵』が公開される。本コラムでは、日本人はもちろん、国境も越えて人々の心をつかんで離さない「忠臣蔵」をモチーフにした映画を紹介したい。
役所広司と佐藤浩市が生き残った赤穂浪士を演じる『最後の忠臣蔵』(10)
「四十七人の刺客」で知られる池宮彰一郎の同名小説を、ドラマ「北の国から」シリーズの杉田成道監督、『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』(09)の田中陽造の脚本で映画化した“泣ける”王道の時代劇。大石内蔵助以下、赤穂浪士四十七士の討ち入りと切腹をクライマックスにする従来の「忠臣蔵」ではなく、生き残った赤穂浪士たちのその後に焦点を当てた後日譚であることが本作のポイントだ。
討ち入りに参加しながら、名誉の死を許されなかった寺坂吉右衛門と、討ち入り前日になぜか姿を消した瀬尾孫左衛門。死にぞこない、裏切り者と言われながら、実はそれぞれ内蔵助から極秘の使命を与えられていた2人が、討ち入りから16年後に運命の再会を果たす。主演の孫左衛門に役所広司、吉右衛門には佐藤浩市。本格的な競演は初めてだった名優2人が体現する忠臣同士の友情が熱い。本作で各映画賞の新人賞を総なめにした桜庭ななみ演じる内蔵助の隠し子、可音の嫁入りシーンの古典的な美しさは必見。
キアヌ・リーブス主演のハリウッド版「忠臣蔵」こと『47RONIN』(13)
「忠臣蔵」をベースにしながら、キアヌ・リーブス主演のハリウッド映画として製作された新解釈のオリジナルストーリー。監督はトヨタ「レクサス」やBMWなど世界的企業のCMを手掛け、本作で長編映画デビューを果たしたカール・リンシュ。脚本は「ワイルド・スピード」シリーズのクリス・モーガンが担当。秘術が使える主人公カイや、変幻自在に姿かたちを変える妖女ミヅキなど、不思議な力を持つ架空のキャラクターを加えたことで、独特のオリエンタルなムードが漂うアクションファンタジー作品に仕上がっている。
キャスト陣はカイ役のリーブスのほか、大石内蔵助役に真田広之、吉良上野介役に浅野忠信、内蔵助の息子である主税役に赤西仁、妖女ミヅキ役に菊地凛子、浅野内匠頭(田中泯)の愛娘でカイに想いを寄せるヒロイン、ミカ役に柴咲コウと、主役級の日本人スターが勢ぞろい。当時の最新VFX技術を駆使した映像も満載で、スピード感あふれる美しいビジュアルが楽しめる。
武士道ではなく、騎士道としての「忠臣蔵」を描く『ラスト・ナイツ』(15)
『CASSHERN』(04)、『GOEMON』(09)の紀里谷和明監督の初のハリウッド進出作品。「忠臣蔵」を基に、舞台を架空の封建国家に置き換え、主君を失った“最後の騎士”たちによる誇りを懸けた敵討ちを描く。悪徳大臣に陥れられ、不当な死罪を宣告されたバルトーク卿を演じるのは、モーガン・フリーマン。バルトーク騎士団の隊長ライデン役にクライヴ・オーウェン。日本からは敵側の隊長イトー役で、伊原剛志が出演している。
ダークで幻想的な映像美は、中世ファンタジーものの雰囲気たっぷり。紀里谷作品にしては、意外にもCGを多用したビジュアルを前面には出さず、あくまで主君への忠誠、武士道に通じる騎士道精神を軸にしたドラマの部分を重要視。生身の殺陣アクションも見応えがある。17もの国からキャストとスタッフが結集した大作だが、シンプルでわかりやすいストーリー展開は感情移入しやすく、「忠臣蔵」の世界観の普遍性を際立たせた。
大石内蔵助たちがお金に翻弄される『決算!忠臣蔵』(19)
『殿、利息でござる!』(16)の中村義洋監督が、歴史学者である山本博文の新書「『忠臣蔵』の決算書」を基に脚本も手掛けた“お金”がテーマの時代劇。大石内蔵助役の堤真一、そろばん侍・矢頭長助役の岡村隆史をはじめ、阿部サダヲ、妻夫木聡、竹内結子、石原さとみなど、キャストには豪華メンバーが集結。実際に内蔵助は吉良邸討ち入りまでに使用した経費の帳簿を遺していたため、登場人物の行動一つ一つに説得力が感じられる。
突然主君を亡くした赤穂藩士たちの姿は、現代に置き換えると、社長が起こした事件のせいで勤めていた会社が倒産してしまったサラリーマンそのもの。意志の強い英雄というイメージが強かった浪士たちが、退職金の額に心を揺らし、出張費の高さに頭を抱え、リストラに苦労する様子は親近感にあふれ、応援せずにはいられない。クスクス笑いつつ、当時の武士のリアルな生活感覚を通して、「忠臣蔵」の全体像を理解できる作品になっている。